Ling

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立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花。彼女以外に高嶺の花という言葉の似合う人はいないと思った。
朝の少し眠そうな姿、勉学に励む姿、汗も気にせず全力で運動する姿、友人と談笑する姿、一つ挙げればキリがないほどに毎日彼女のいる景色が脳に焼き付いて離れない。
俺は彼女に見合うよう努力した。
勉強もスポーツも人間関係も、積極的に取り組み彼女と肩を並べられるようになった。そう思った。

思い切って夏休みに彼女を祭りに誘ってみた。もちろん最初はお互いの友人と大勢で遊んで少し仲良くなれたらその後、2人きりになって遊ぶ算段だった。
彼女は2人きりになることに少し躊躇っていたが、友人達のお陰で上手くいった。浴衣似合ってる、とか言えば良かった。いや、迷惑だっただろう。
2人きりになれて帰り際、彼女が真剣な顔で言った。俺はもしかしてを期待した。

「ねえ、その、村上さんはとても良い人だって信じているから...今から言うことも聞いて欲しいの。」


「あのね、私、香織ちゃんのこと、が...好、きなの。」


その後の会話は覚えていない癖に、その俺に向けられたわけではない君の顔が、酷く情欲を煽られるような乙女としての顔が、姿が、あの景色が、脳裏から焼き付いて離れてくれない。


ああ、ずっと覚えていたいが早く忘れてしまいたい。


2025/07/08 #あの日の景色

7/8/2025, 10:44:16 AM