七雪*

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 かがみの裏側の世界。

 それは。僕らと同じようで異なる形を成している。
レタスとキャベツ、小松菜とほうれん草。同じ色に似た形。けれども、決して同一にはならないのだ。レタスはキャベツには成れない。僕らが鏡の向こうの人間に成ることが出来ないように。

 まがいものとは何だろうか。時に、僕らはどうやってそれを区別する?僕らは日常的に信じている。鏡に映った僕も、今此処に存在する僕も、同じ「僕」という存在だと。鏡の僕は、本物の僕そのものじゃない。鏡という性質上の問題ではあるが、鏡の僕は本物の僕を歪めたものに過ぎない。

 でも、やっぱりそれも「僕」だろう?
まがいものだろうが、僕という存在の一部だ。

 異なる形を成していようと、それの本質は僕で在ることに変わりは無い。僕という人間は、鏡の向こうの僕には成れないけれど、鏡の僕もまた、僕という存在を共有する生き物だ。

 僕という存在がなくなれば、鏡の僕も息絶えてしまう。僕らは謂わば、最も身近な運命共同体なのだ。

5/19/2023, 2:03:25 PM