いろ

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【愛情】

 目の前でキャンキャンと喚き立てる女の子を、つまらないなと思いながら眺める。見た目は可愛らしいけど、それだけだ。泣いている彼を放っておくなんてひどい、私だったら彼を慰めてあげられる、そんなふうに杓子定規にしか愛を語れないから彼に見向きもされないのだと、どうして気がつかないのだろうか。
 口を挟んで口論になるのも面倒で黙って聞き流していれば、不意に私の横から影が差した。びくりと肩を跳ねさせた少女が黙り込む。冷ややかな眼差しをした彼が、無言で私の手を取った。
「あのさ。せめて直接僕に言ってくれない? そうしたら僕がはっきり答えてあげるから」
 顔を真っ白にしたあたり、彼の怒気は伝わっているらしい。少しは手加減してあげれば良いのにと思いながらも止めないあたり、私もたいがいなのだけれど。
「僕がほしい愛情の形は、君の思うものとは違う。僕と彼女の関係に部外者が口を挟むな」
 やれやれと息を吐きながら、彼の手をそっと口元に引いた。宥めるように指先に口づけてやればようやく、彼は私へと視線を向ける。
「……ごめん、迷惑かけた」
「別に。君と付き合ってる段階で覚悟の上だし。パンケーキ奢ってよ、駅前に新しい店ができたから」
 君の手を引いて歩き出す。馬鹿な女の子にはもう互いに目も向けない。私たちの愛の形は私たちだけが知っている、それで十分だった。

11/28/2023, 9:59:58 AM