「はあっー、書けない!もうっ」
何で。何で書けないの。
書きたいのに。
人を笑顔にできる漫画を描きたいのに。
どうしても書けない。
今年最後のコンテストの締切が迫っている状況にとってはこれが凄くイタい。
きつい。苦しい。やめてしまいたい。
けど、私にはこれしかないのだ。
なんの取り柄もなく絵を描くことさえもなくしてしまったら私にはなにも残らない。
何か一つでも人から求められるものがないと私はいる意味がない。
「もうやめたい。」
そう思いながらもやめれなくて、ずっと漫画を書き続けた。
無我夢中で書いてたらいつのまにか朝になって学校に行く時間になっていた。
どうすれば納得のいく絵が書けるんだろう。
なんで、物語が思いつかないんだろう。
なんでこんなに馬鹿なんだろう。才能がないんだろう。
「ゆな?
大丈夫?無理してない?きついんじゃない?」
彼氏の本城(ほんじょう)先輩が声をかけてくれた。
そうだ。今は先輩とご飯食べてるんだから暗い顔してちゃダメじゃん。
「すいません、大丈夫です。
それより先輩の弁当美味しそうですね。誰が作ってるんですか?」
先輩に心配はかけたくなくてはなしを逸らした。
「ゆな・・・・・・・・・・」
先輩は何か言いたそうな顔してたけど私が話を続けたくないことを察したのかそれ以上聞いてこなかった。
「書けない。何で?前はこんなんじゃなかった。」
今の時点で全然書けてないんじゃ締切には間に合わない。
「くそっ!ばかばかばかばかっ。私のバカ!」
インターネットに投稿しても全然いいねはつかないし、私のマンガなんて誰にも求められていない。
思い切ってもうやめてしまおうか。
今までに何度も浮かんだ考えがまたよぎるけど、書かないと言う選択はできなかった。
「締切」
それが自分の頭の中から離れなくてどうしようもなかった。
体が悲鳴をあげている。
危険サインを出している。
けど、寝れない。ベッドに入って目を瞑ってもマンガのことが頭の中にこびりついて、なかなか眠気が襲ってこない。
そして、また寝ないで徹夜して書いてしまった。
それでも納得のいく作品は書けない・・・・・・。
「ゆなっ!!危ない。」
廊下を歩いていた時、急に力が入らなくなって倒れそうになった。
でも、先輩が気づいて支えてくれる。
「ゆな。大丈夫か?保健室いこう。」
先輩が心配そうな顔して言ってくる。
大丈夫。まだやれる。ちょっとぐらついただけだから
「大丈夫ですよ。ちょっとフラッとなっちゃっただけなので。それより次、移動教室なんです。早く行かないと」
「ダメだ。保健室にいこう」
「大丈夫ですって。」
「ゆな、行こう。」
保健室に行ってもどうせ寝れない。
それにマンガのネタがもしかしたら思いつくことがあるかもしれない。
だから出ないと。
「いえ、行きます。」
「ダメだって。」
なんで。邪魔しないでよ。
マンガのためなんだから。しつこいよ。
「別に先輩に関係ないでしょ!?
行かないといけないんです。
そうしないとダメなんです。
ほっといてください。余計なお世話です。」
しまった。
こんなこと言うはずなかったのに。
思わずカッとなって言ってしまった。
先輩は悲しそうな傷ついたような顔をして笑って言った
「そう、だよね。ごめん、ちょっとしつこかったよね。無理しないようにね。」
そう言って先輩は去って言った。
酷いことを言ったのに、全部私が悪いのに、先輩は謝った。
ごめんね。先輩。
結局次の日も次の日もマンガのネタは思いつかなかったし、書けなかった。
でも、締切が近づくにつれて私の心は焦っていく。
そこからも寝れない日々が続いた。
そして、とうとう体育の時間に私は倒れてしまった。
目を覚ましたら先輩がいた。
「せん、ぱい?」
私が声をかけると安心した顔で微笑んだ。
行かないと。戻らないと。
「先輩ここにいてくれたんですよね?
ありがとうございます。でも、私教室戻るので先輩も戻ってください。
迷惑おかけしてごめんなさい。」
私が早速戻ろうとすると
「ゆな!!お前、ふざけんなよ?
何が教室戻るので先輩も戻っていいだ。
今の自分の体の状態わかってんのか?
倒れたんだぞ?
それで俺には何も相談しない。
別に俺じゃなくてもいい、他に相談出来るやつがいるならそいつに相談すればいい。
1人で抱え込んで無理すんなよ。
今思ってること吐き出せよ。
ただ、ゆながどんどん壊れていきそうになるの見んの辛いんだよ!」
びっくりした。
今まで先輩はこんなふうに怒ったことなんてなかった。
いつも笑ってて穏やかだったから。
初めてだ。
「お願いだよ。ゆな・・・・・
お前がいまマンガの締切に向かって頑張ってんのは知ってるよ。でも、もうこれ以上無理すんな。」
今度は泣きそうな声で言われてようやく自分が自分のことばっかりだったことに気がついた。
私がどうなったって誰も気にしないと思ってた。
こんなにも先輩が思ってくれてるのに自分勝手に動いて、先輩を悲しませた。
先輩に相談する。今の気持ちを吐き出す。
それが今の私にできる先輩に対しての最大の謝罪とお礼の表し方だった。
「ごめん、なさい。
悔しい、悲しい。
自分には才能がないことなんてとっくにわかってるんです。でも、書くしかないんです。
私はそれがなきゃ、必要とされない。
だから、頑張るしかない。」
今まで溜め込んでいた気持ちを少しずつ吐き出していく。
先輩は黙って頷いて聞いてくれた。
「でも、どれだけ書いても納得のいく作品が出来上がらない。ださないといけないチャンスは迫ってるのに、
どうしても無理で。
まだ出せていないから審査されてないからスタートラインにでさえ、立ててない。
落ちても、受かってもなくまだ何にもしてないから焦る。もう、やめてしまいたい。」
全部を吐き出した。とは言えないけどだいだいは言えた。
先輩は泣きながら話す私を見て真剣な顔をして言った。
「じゃあ、やめるか?
何もかも捨てて、人から認められるとか認められないとか考えなくていいところに俺と一緒に逃げるか?
もう、辛くてやめたくて、そんなきつい思いするなら逃げるか?」
逃げる?
何もないところに?
人の目も気にせず先輩と一緒に?
「よし!じゃあ、行こう。
なあ?俺はお金なら持ってるし、どこにでもいけるぞ?
ゆなはどこいきたい?
行きながら決めようぜ?
ほら、荷物もって早速行こうぜ?」
「えっ?」
そう言って先輩は私の腕を掴んで連れ出そうとした。
先輩は、本気、だ。
でも・・・・・・・・・
「いやっ!先輩と一緒にいかない。」
「何でだ?マンガ書くの辛いんだろ?なら俺と一緒に逃げよう」
自分でもなんで行きたくないのかわからなかった。
マンガを描くことからやっと離れられるのに?
「行きたくないのか?それは何で?」
先輩は優しく問う。
それは・・・・・・・・・・
「私はマンガが好き!書くのが好きなの!」
あぁ、そうか。
そうだった。
今自分ではっきり口に出して思い出した。
出すから出したいから締切に追われて、書くんだって、私にはそれしかないからって思ってたけど、ほんとは違うじゃん。
締切という言葉に追われて、早く出さないとっていう気持ちに追われて自分の気持ちがわからなくなっていた。
「だろ?好きなんだよな?ゆなは。
書きたいんだよな?
それに、ゆなはそれしかないって求められないって言ってたけどそんなことないんだ。
俺はゆなが好きだ。
無理しちゃうところも。
頑張りすぎちゃうところも。全部が好きだ。
他の奴らがゆなを求めなくても俺だけはゆなを必要としてるんだ。忘れるなよ?」
大事な思いを思い立たせてくれた先輩。
ありがとう。
今なら少しだけ、いいマンガが書ける気がした。
読んでくれてありがとうございました。
7/23/2023, 11:49:38 AM