秋茜

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お題「無人島に行くならば」


タイトル「そうなんですよ、この三人で」


「なぁなぁ。 もし無人島に行くとして……一つだけ持って行けるとしたら、何持って行きはります?」
夜月 奏(よづき かなで)が、長い黒髪を丁寧に結いながら、はんなりした口調で右隣に座る友人に問いかける。

「そうですねぇー。 とりあえず、ゲームとお菓子! かな? あっ、あと日焼け止めとかも欠かせませんよね~。 あとは――」
三人の真ん中に座る、問いかけられた友人A。
水白 春花(みずしろ はるか)が、早口に動きの激しい身振り手振りを交えて好き勝手にまくし立てる。

「……いやいや、一つだけっていわれたじゃん。 話、聞いてないでしょアンタ。 バカなの?」
左隣に座る春花の饒舌を、日ノ坂 陽子(ひのさか ようこ)が鋭いツッコミを被せて中断させた。

いかにもファミレスで駄弁る仲良しJD(女子大生)三人組と言った雰囲気だが、周りをみればそんな日常のワンシーンでないことは直ぐに分かる。

――さんさんと輝く太陽。
――眩い白い砂浜に何処までも青い海と空
――大破した小型ボートの残骸
――砂浜に書かれたでっかい「SOS」
――そして、横並びになって膝を抱え座りこむ三人のJD。

……つまり、この三人。
現在、リアルに無人島にて遭難真っ最中なのだ。

―――――――――――――――――――

――とある8月の日のこと。
 太陽が眩い、常夏の海と空の下。
奏の運転するクルーザーが、三人を乗せ、風を切って海上を走る。
海風が少し髪をベタつかせるが、そんな些細なことなど一切気にならないほどの絶景が広がり続けている。

良いところのお嬢様である夜月 奏の所有する自家用クルーザーに乗っての、奏と春花と陽子のJD三人組での友情旅行は、きっと楽しい思い出になるはず、だった。

「ねぇ! あの島、景色めちゃ綺麗じゃない? もっと近付ける、かなちゃん!?」
春花がぴょんぴょんと小さく跳ねながら、
少し向こうに見える島を指差した。

「ええよ~? ほな揺れるさかい、しっかり掴まっとってなぁ~」
奏がぐいっと舵を切る。

クルーザーが旋回し、春花の指差す島を目指してまっしぐらに進む。

「ヨーソローーー! このまま島まで突き進めぇーい!!」

「春花マジ声でっっっか! うるさっ」

 陽子が片耳を押さえながら、ハイになって叫ぶ春花から少し距離を取る。

次の瞬間――激しい衝撃音と共にクルーザーが跳ねて空を飛んだ。
島の周りを囲む、水底に隠れた岩礁に乗り上げてしまったのだ。
クルーザーは勢いを殺さず、緩い放物線を描いて島の砂浜に突き刺さり――真っ二つに大破した――。


「……ああ、海、きれい、ダナー」

現実逃避にふける陽子が力なく呟く。
先ほど「無人島に一つ持って行けるとしたら」なんて下らない話をしていたが、現実は更に悲惨で。
クルーザーが大破した衝撃で荷物などは全て吹き飛び、海底に沈み、一つどころか全ロスである。
今あるのは命と身体と着ている服だけだ。

「まあ、奇跡的に皆さん無傷ですんだんやし。 「万事塞翁が馬」ともいいはりますやん? きっとこのあとええことありますよ~。 多分」

「この状況なら、「骨折り損のくたびれ儲け」のほうがピッタリじゃないのか?」

「くたびれも立派な儲けのうちやって~。 元気出してーや、陽子ちゃん♡」

「……お前の骨とか材料にして『いかだ』作れないかなって考えてるんだけど、どう思う?」

奏の励ましてるのか煽ってるのか微妙なラインの言葉に、陽子が顔中のシワを眉間に寄せて言葉を返す。

「まあまあ、二人ともギスギスしないで! 何とかなるよ! 知らないけど!!」

もはや何か言う気力も萎えた陽子は、大きなため息をついてからゆっくりと立ち上がり、森に向かって歩き始めた。

「まあこんなとこで座ってても確かに何も変わんないし……とりあえず何か使えるものでもないか探しに行こうか」

「おお、いいねー! 冒険の始まりだー!」
「春花はん、こないな時でも元気やね~。 励まされますわぁ~」

春花のハイテンションなシャウトと奏のテキトーな相づちを聞き流しながら辺りを見渡していると、妙なものを視界に捉えた。

「……石碑? いや何だろうあれ」
近付いてみると、穏やかな顔をしたお地蔵さまにも見えるそれは、まるでこの島を守るように海に向かって置かれていた。
明らかな人工物。
――もしかしたら、人がいるかもしれない。
陽子の胸に期待が沸き起こった。
春花と奏も同じく顔を綻ばせていた。

「かなちゃん! ようちゃん! これって明らか誰かが作った感しない!? てことはここ、無人島なんかじゃないんだよ!」

そう春花が言う傍ら、奏が少し不安そうな顔に変わる

「いうて、もし誰かがここにいてはるとしても……その誰かがうちらのこと歓迎してくれるとは限らへんよな……」

ピタリと三人の時が止まる。
確かに奏の言うことはもっともだ。
逆に、その誰かに敵と見なされて襲われたりしたら?
非力なJD三人では、なすすべもないだろう。そうなったらどうすれば――。
陽子が考え始めたその時だった。
草が掻き分けられる音がして、何かが這い出してきた。
三人に一斉に緊張が走る。その時だった。

「……お父さん?」
奏が、声を上げる。

「は???」「お、お、お父さん?」
春花と陽子が同時に間の抜けた声を出す。

「あれぇー?奏じゃないかぁ。 こんなところでなーにしてんだ?」

奏に「お父さん」と呼ばれた人物は、まるで近所の道端で偶然出くわしたくらいのテンションで軽く返す。
よれよれのアロハシャツの襟を直しながら、その男性は重そうなリュックを砂浜の上にそっと降ろした。

「こないなとこで~はこっちのセリフやわ! ほんまに何してはりますのお父さん!!……てかいややわ~もうなんなんその格好!? ダサすぎひん!?」

奏が珍しく慌てた様子で騒ぎまくるが、全てスルーされる。

「お、隣のお二人さんは奏の友達かな? 奏がいつもお世話になってます」
ぺこり、と軽く頭を下げる奏の父親に、慌てて春花と陽子もお辞儀を返す。

「えっと……私たち、三人で奏のクルーザーに乗ってて。 それで事故っちゃって……えっとこれってどういうことでしょうか?」

陽子が駆け足で状況を説明して質問する。

「……あー、なるほどね。まあ、奏は運転下手くそだからなあ。 良かったなあ三人とも無事で! はーっはっは!!」

「はーっはっはー、やあらへんて! だから……何でこないなとこでお父と合わなあかんの!?」

奏の慌てるのとは対照に、奏のお父さんは落ち着いて事も無げに答える。

「奏、忘れたのか? ここは――俺が持ってる避暑地の一つだぞ?」

「「「……はい?」」」
三人の声が見事にハモる。

「てか、ここら辺の島は大体うちのグループが買い取ってるからなー。はっはっは!!」

「あっ、あと奏。 クルーザーの十個や二十個ぐらいまた買ってやるから! な? 落ち込むな! せっかくだし、三人で楽しんで行きなさい!」

「それで落ち込んでるんとちゃうわ!!」

「あの……えっと……え???」

「と、とりあえずバカンス続行! ……で良いのかな? とりあえず助かったー!! ヤッホーい!!」
「いや、呑み込み早いって! 何だコレ……」
ため息をついて脱力する陽子と対照的に、元気を取り戻した春花は意気揚々とはしゃぎはじめた。

「あ。 三人とも、迎えのヘリは何時でも呼べるからなー! あと別荘はこっから真っ直ぐ徒歩十分ぐらいだからな。 野宿なんて危ないことするんじゃないぞ?」

「あの、ちなみにあそこのお地蔵さまみたいなのは……?」
「ああ、あれか? あれは俺が掘った作品だ! どうだい?良い感じだろう?」

「いややわ……もうアカン……恥ずかしすぎる……」
頭を抱えてへたりこんだ奏を尻目に、
良かったなー、良い友達が出来て!わっはっはっは~!
などと言いながら、奏のお父さんはまた草を掻き分けて森へと帰って言った。

ひとりで大型犬のように無邪気に浜辺を走りはしゃぐ春花と、まだへたりこんだままガックリうなだれて両手で赤くなった顔を押さえて動かない奏を交互に見ながら、陽子は浜辺に座り、一息つく。

「まあ、終わり良ければすべて良し、……なのかな?」

気軽な気持ちとノリで出発した三人の旅行は、とんでもないハプニングの末、ぶん投げたようなオチに収束してしまったが。
陽子の心は、なぜかわくわくとした楽しさに満ちていた。

「かんにんしてな~……。 もう帰ったら二人とも何っでも好きなもんこうてもろてええから。何でも 好きなもん食べさせたるから……」
「いいって、そんなん。気にしないでも……お~い、春花ー! あんまり離れたら危ないよー! 戻ってこーい!!

すっかりしおらしく、というかしなしなになってしまった奏の頭を撫でつつ、点にしか見えないほど遠くまで行ってしまった春花に陽子が大きな声で呼びかける。

「……万事、塞翁が馬、か」

本当に何が起きるかわからないのが人生というものなのだな、などと陽子は悟りを得た気持ちに浸りながら、広がる海の向こうの地平線を眺めた。

この島から戻ったら、またいつも通りの日常が始まり、続いていくのだろう。
そしていつか、ひとり退屈に埋もれる日があっても。
何もかも嫌になるくらい悲しい日がやって来ても。
今日この日の三人で出会った非日常な体験は、いつまでも忘れることなく……。
――この楽しさとともに、心に残り続け、私たちを助けてくれることだろう。

10/23/2025, 6:21:38 PM