喜村

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 濁りのない綺麗な水。透き通っていて、不純物のない……かつての私も、こういう感じだったのだろうか。
 気分転換にやってきた山の湧き水をすくって、私はしばらく考えた。
 生まれたばかりの私も、混じりけのない水で、でもいろんなものに触れあって、いつの間にか濁っていった。
 山からの湧き水は酷く冷たく、でも柔らかかった。
 不純物を今から取り除くというのは、難しいものだろうか。
私はただ透明な湧き水に指をつける。

 私は汚れきってしまった。疲れたのだ。
だから、もう最期にしようと、この人気のない山の中に入った。
でも、ここには人の手のおよんでいない、綺麗な自然があって、こんなふうに綺麗な水もあって、綺麗な空気が漂っている。
 今の私は、自ら命を断ちたいというどす黒い淀んだ心だけれども。
 透明な水から指先を離す。なんだか、少しだけ心が透明になった気がしたから。
 もう少しだけ、生きてみようかな。
 適当に歩いてきた山道を私は戻る。足元には透明な水が帰り道を示してくれていた。


【透明な水】

5/21/2023, 10:14:10 AM