「自由に、どこまでも飛んでいきたいね。」
そんな事を言う彼。自由って本当にあるのかな。
「いいな―。女の子って。」
スカートいいなー。堂々と化粧できて良いな―。僕は街を歩く女子を見て呟いた。僕の体は男だが、心は女だ。少し異質な僕。そんな僕を世界は認めない。いつだって否定してくる。お前は間違っていると、指を差す。だから、隠した。自分の気持ちを殺した。そうしたら、世界は優しくなった。僕は男。何度も自己暗示を掛けた。その度に心が叫んだ。耳を塞ぎたくなる程の大声で。いつしか、死を夢見るようになった。その思いが溢れた時、僕は屋上へと向かった。
屋上には先客が居た。僕が去ろうとした時、先客が話しかけてきた。
「ここから飛んだら、自由になれるのかな?」
「分かんないよ。でも、この世界に自由なんてないよ。」
僕の答えに彼は、だよねと言った。僕は彼に聞いた。
「君はなんでここにいるの?」
「気付いたんだ。自分は親の操り人形だって。自分の意志を無視してきたって。だから、最後ぐらい自分の気持に正直になりたいんだ。君はどうして?」
「僕は女の子になりたい。」
僕の告白を聞いても、彼は気味悪がらなかった。
「それいいね。君とはいい友達になれそうだ。」
思いがけない言葉に動揺する。そして、涙が止まらなくなった。そんな僕を見て、彼は笑顔で言った。
「明日、一緒に自由になろうよ。」
「昨日ぶりだね。」
僕が現れると、彼は笑顔で迎えてくれた。そして、少し驚いたような顔をした。無理もない。今の僕は、ワンピースを着て可愛く化粧をしているのだから。
「ねぇ。〝私〟可愛い?」
「世界一。」
そして私達は、自分を縛ってきた枷を断ち切った。
誰もが自由になれず、自分を殺し続ける世界。正直者が弾圧される世界。そんな腐った世界で、きっとこの一瞬は、私達だけが自由を謳歌する正直者だった。
6/2/2024, 2:22:08 PM