ライ麦粉

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 何を求めるも無く、何処に行くも無い。
 ただ、自分の人となりが、それなりの時分に、ふらりと足をいずこかへ向かわせるだけである。
 息苦しいのだろうか。日々の生活が、自覚もなしに煩わしく感じているのだろうか。しかしそれにしては、愛おしいものができすぎてしまった様にも思える。全く、難儀なものである。

 そういう訳で、たまの出張なんかを言い渡されたら、部下同僚は、それなりに嫌な顔をするのだが、自分はむしろ、心持ちモチベーションが向上する。忙しい時期じゃなければ、大抵は連ねる様に有休を取って、少し長めに目的地に滞在するのが、自分の中の一つ決まりとなっていた。
 仕事仲間は皆気持ちの良い奴で、たまに長く留守にする自分は、それなりに迷惑をかけているだろうに、嫌味の一つ無く。貸しだと笑って、美味い土産を所望するばかりである。息子諸君も土産話を聞かせれば眼を輝かせ、妻も、埋め合わせにと同じ場所に皆で赴き、ガイドの代わりを少々やってくれればそれで良いと朗らかに言う。
 そんな彼らに文句などつけようもない。自分は少し、恵まれ過ぎている。

 ……ああ、そうそう。どんな僻地へ訪れても、石ころの一つ、それもなければ面白い話を、自分は必ず土産に包むようにしている。何を当たり前の事を、と言う人があるかもしれぬ。だがそれの示す意味を考えたとき、ふらりと出掛けたくなる、などと言っておきながら、随分甘えたものだ、と我ながらの傲慢に笑ってしまった。

 私の旅路の果てにはいつも、我が家へと帰る、片道切符が握られているのだから。

【旅路の果てに】

2/1/2023, 1:06:03 AM