いぐあな

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300字小説

秘められた優しさ

 人間と魔族の戦いが激化するなか、魔族に庇護され育てられた人間の娘など、あってはならない存在だった。
『お父さん』
 と呼ぶ娘に
『利用価値も無い能無し』
 と酷いことも言った。そして、密かに部下に調べさせ、善良な人間の営む孤児院を見つけ、大枚の寄付と共に『売り飛ばした』。

「あれから二十余年、まさか人間と魔族が和睦を結ぶ日が来るとは」
 魔族側の使者として来た私の前に、人間側の使者として中年の女性が現れる。
「……お前は……」
 歳はとったものの、忘れるはずもない面立ちを宿した彼女に愕然とする。
「お久しぶりです。お父さん」
 彼女が笑む。
「やっと再会することが出来ました。私が貴方の優しさに気付かなかったと思いましたか?」

お題「優しさ」

1/27/2024, 1:15:00 PM