「ザクッザク……ちょうどこんなふうな音でした。
その音で、私は真っ暗闇の中、目を覚ますのです。
しかし、そのままゆっくりとあくびをするなんてことはできません。
私のいる、どこかを、だれかがザクッ、また、ザクッと、揺らす……
私は言いようのない感情に襲われました。
ああまるで、胸のあたりに岩がはいりこんだよう。スー、ハーと、あたりまえの呼吸ができなくなり、
頭の中が、なにか灰でも詰まったみたいに、キチンと考えがつかなくなっていく。
怖い、どこからともなくこの言葉が出てきた時は、どういうわけでしょう。
異常を訴える身体とは真逆にスっとしました。
なぜ今まで、私は恐怖というなまえを知らずにいたんでしょうか。
おそれおののく私の身体でしたが、あら不思議。
カーッン!
このような軽快な音を境に現れたまばゆい光と、
おおきなおおきな赤い……そうね、ホオズキのようなかんじ。
それと酷似したものを、私はなぜだかたいへん愛おしく想い、ふふふ、とにこやかに笑いかけたのです。
『おおお……』
そのホオズキは分厚い唇をまるく聞いて、更には、キチンと座してほのかに口端を上げる私を見て、感嘆しているよう。
ホオズキは、私のようにしなやかではない、まるで無骨な手の上に、そーっと私を乗せ……
あーっなんてあったかいんだろう!
私は驚きました。だって、どんな上質なおふとんよりも心地よかったんだもの。
……それから、うーんっと、ホオズキの手の上で、のびをした。
フゥーっ!おもいっきり吸い込んだ空気が、あんなにおいしかったことはないわ。
さあ、心地のいい敷物、おいしい空気、暖かな光……深い睡魔がやってくる。
ふと、首をこのように転がすと、ホオズキがさっきよりよくよくハッキリ見えました。
そこで、私は初めて、気がついたのです。
それは実なんかではなく、私たちと同じように目も耳も鼻もある、いきものなのだと。
そうすると私の胸の内は、みるみるどんどん、深いよろこびやうれしさに包まれた……
私の、ずっと探し求めていたものに、そのいきものがピッタシ合致したかのような、そんな気持ちよさにまで包まれ……
ここで、私は目を覚ましたのです。
なぜ、うれしかったのか。よろこべたのか。
分かりませんが、私の目元には涙が一筋、ありました。
ここには悲しいことなど何一つないというのに」
一度地球へ落とされたという天女さまは、私に、このようにおっしゃいました。
彼女の目からひびわれるように落ちていく涙のしずくに、私はいつの間にか目を奪われ、これだから地球は禁忌とされているのでしょうと、胸の内におさまったものです。
1/23/2024, 11:13:05 AM