狼藉 楓悟

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 1年ほど前から、月に1度ほどのペースで手紙が届くようになった。
 手紙と言っても、書いてあるのは日付と地名、時々一言添えられているだけのメッセージカードだけれど。風景や現地の食事、珍しい草花や装飾品なんかの写真が同封されてる。時々小さなキーホルダやアクセサリー、押し花なんかが入っていたりもする。小さな小さなプレゼントボックスみたいな手紙。
 国内外問わずいろいろなところから送られてくるその手紙は、すべて一人の友人からの贈り物。1年前まで、一緒に色々な場所を旅していた。男女二人旅なんて色々言われることもあったけど、最後まで友達以上恋人未満。一度も嫌な顔せず一緒に旅行してくれた大切な友人。
 口下手で無愛想な人だけれど、お互い旅行が好きで、次はどこに行こうかとか、今までどこに行ったとかって話になると少し口数が増えて楽しそうにする。そんな姿が好きだった。 
 曖昧な関係が心地よかった。友人と言うにはあまりにも近い距離感だけど、恋人と言うにはどこかよそよそしい。
 次の旅行の計画途中だった。一緒に行きたい場所もまだまだ沢山あったのに。
 私は、もうどこにも行けない。
 初めてお見舞いに来てくれたときに、彼へ全てを話した。普段感情をあまり表に出さない彼の今にも泣き出しそうな表情が今でもはっきり脳裏に焼き付いている。
 私のことを待たないで良い。なんなら忘れて欲しいというつもりで伝えたけれど、優しい彼は私を諦めてはくれなかった。
 行ってみたいと話していた場所、行ったことのない国の写真が沢山送られてくる。一緒に行こうと話していた国、見てみたいと言った景色。そして数多くの病気平癒のお守り。
 自分でも諦めていた私の命を、彼は諦めず祈ってくれている。そのことがどれだけ私の救いになったか。彼のおかげで、自分の足で行くことが叶わなくともフィルム越しに旅を続けられることがどれだけ嬉しいか。きっと彼は知らない。
 真っ白なベッドの上。沢山の写真に囲まれながら、今も旅の途中であろう彼の姿を思い浮かべ、いつか再び病室を訪れてくれる日をただ待ち遠しく思う。


#22『旅の途中』

1/31/2025, 12:44:05 PM