―静寂に包まれた部屋―
学校の教室くらいの広さで、
教卓があるところや、
机と椅子のセットが
規則正しくならんであるところなどまで
教室に似た部屋。
部屋に窓はなく、
ドアも教卓の近くにひとつだけ。
外の光が差し込まない上に
電気もつけていないので、
部屋の中は真っ暗だった。
教卓の位置とは反対方向の席7つを除き、
50個程の全ての席に
小〜中学生くらいの子供が座っていて、
教卓に1人、ドアの前に1人、
そして机の間を縫うように歩き、
子供達の様子を見て回る人が2人、
計4人の大人がいた。
例の机7つを除く全ての机に乗った
タブレットが一斉に起動する。
曲がることないタブレットのブルーライトで
部屋が少しだけ明るくなる。
それでもまだ薄暗くて、
子供達の表情がぼんやりと浮かぶ。
でも、浮かんできたどの顔にも
感情は感じられず、ただただ無表情だった。
教卓の大人が鋭く冷たい声を放つ。
「それでは、ヘッドセットをつけなさい。
…これからテストについて説明をします。
このテストでは、難易度の異なる5択問題が
ランダムで200問出題されます。
回答時間は1問10秒で、
回答時間内に選択肢を押さなかった場合、
その問題を未回答で不正解とし、
次の問題を表示します。
選択肢は1度選ぶと変更できませんので、
よく注意して選びなさい。
…今から10秒後にテストを開始します。」
「それでは、始めなさい。」
タブレット付属のタッチペンを使い、
子供達はそれぞれのペースで
問題を解いていく。
ポンポンとスムーズに回答する子供もいれば、
タッチペンを持ったまま
フリーズしている子供も少なからずいた。
飾りのないシンプルなヘッドセットからは
チクタク、チクタクと、
秒針の音だけが聞こえてくる。
焦らされている気分になり、
慌てて、回答を間違える。
それが意図なんだろう。
タッチペンでタブレットを叩く音だけが
部屋に溶けていく。
テストを終えた子供のタブレットから、
次々と光が消えていった。
最後のタブレットの光が消えた時、
部屋の電気が付いた。
明るみになった部屋の中は、
壁も床も天井も、机も椅子も
何もかもが無機質で真っ白だった。
ただでさえ明るい電気を反射していて、
目を開けていられないほどに眩しかった。
そんな中子供も大人も、
誰も眩しさに反応することはなく、
無表情を保っていた。
ピンと場の空気が張り詰め、
部屋が静寂に包まれる。
「テストが終了しました。
これからテストの成績を公開します。」
次々と子供達の名前が呼ばれ、その後に
正解した問題の数、不正解の問題の数、
未回答の問題の数、問題の正答率に、
それらのテスト結果で判断された
『ランク』が発表された。
全員の成績発表が終わると、
成績最優秀者と、成績最劣等者の名が呼ばれた。
成績最劣等者とされた子供は、
次の瞬間、無表情を崩した。
顔を苦しそうに歪め、呻き声を上げ、身をよじる。
その10数秒後には椅子から崩れ落ちて倒れ、
更にその数秒後にはのたうち、苦悶した。
1分程経つと…
やがて動きが鈍くなり、
突如としてピタリと動きが止まった。
それ以降彼は動くことなく、
ドアから新しく入ってきた大人2人が持つ担架に
乗せられて、部屋を出ていった。
その間も、他の子供達は無表情を徹底していた。
誰も騒ぐことなく、誰も驚きを見せることなく、
誰も気にかけることすらなく。
それは大人も同じことで、
1人の子供が明らかに苦しんでいるのに、
動こうとしなかった。
次の日、昨日と同じように、あの部屋には
また人が集まっていた。
昨日と変わらない景色。
その中で唯一変わっているのが、
子供の人数。子供の座っていない席が
8つになっていた。
子供達は相変わらずの無表情で、
子供のいない席が増えたことに
全く疑問を持たなかった。
パッ、パッと光の柱が
タブレットから立っていく。
沈黙の中に命令口調の声が響いた。
「それでは、ヘッドセットをつけなさい。
これからテストの説明をします。
│
今から10秒後にテストを開始します。」
静寂に包まれた部屋――
「それでは、始めなさい。」
9/29/2022, 9:05:10 PM