郡司

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病室

母は窓際のベッドだった。7階。見慣れた街も高さが違うとぱっと見では土地勘に合致しない。二つ離れた病室には祖父が入院していて、見舞いは行ったり来たりだった。違う階に兄も入院していた。「うちどうなってるんだっていう感じだよね」「そうだなあ」などと、兄と祖父のやり取りもあった。兄は暇が高じて祖父の病室に入り浸っていたらしい。私は祖母の介護があるのであまり長居できない。下の子を保育園に迎えにも行かなくては。私が祖母の家に行けば、入れ替わりで父が病室に来る。

できるだけ、悲壮感に近寄らないようにしていた。階にもよるが、入院病棟の各病室に悲壮感は既に十分ありすぎるくらいだった。そんな気持になるのも仕方ない種類の病の人が居る区画だった。

ベソをかきながら、祖父を、母を、家に連れて帰った。

ある程度元気でもすごく元気でも、「じゃ!」なんて言いながら、生きてる家族を家に連れて帰ることができるのは幸せだと、本当に思う。あまり静かにしていると、病室に漂う感情にコテンパンにやられそうだった。

どんな結果でも、いちばん頑張った人は病室から帰った人だ。

8/3/2024, 1:05:28 PM