燈火

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【太陽】


ようやく怒涛の一週間が終わった。
週末、気分転換で街に出ると、甘い香りが鼻をくすぐる。
見れば、先週まで工事していた場所に花屋ができていた。
開店祝いのスタンド花が店前に立っている。

「いらっしゃいませー」男性の声に誘われて店に入った。
カーネーションやゼラニウムなど、鮮やかな花々が並ぶ。
それらの中で、小輪のひまわりに視線が止まる。
ああ、懐かしい。幼い頃は近所にひまわり畑があった。

あれはどれも大輪で、背の丈よりも高かったっけ。
中から見たらどんなに綺麗だろうといつも想像していた。
迷子になるから入ってはいけない、と言われていたけど。
麦わら帽子を被った私は、ひまわりの海に飛び込んだ。

案の定、出られなくなって泣き喚いたことを覚えている。
視界を緑と黄色が埋めつくし、空の青さえ見えない。
それなのに日差しは強いから暑くてたまらない。
自分を探す声がどこから聞こえるのかもわからなかった。

泣き疲れて座り込んでいると、誰かの近づく音がする。
聞き慣れない「見つけた」の声に顔を上げる。
知らない男の子が私に手を差し出していた。
そして彼は私の手を引いて、連れ出してくれたのだった。

「お好きですか?」郷愁に浸っていると声をかけられた。
「きれいですよね、ひまわり」花を眺め、男性が微笑む。
「『あなただけを見つめる』って恋の花言葉もあります」
その横顔が寂しそうに見えるのは、私の気のせいかな。

花瓶があることを思い出し、一輪だけ買って帰宅した。
小ぶりながら力強さのあるそれは、部屋を明るく照らす。
また行ってみようかな、なんて。
今日はとてもいい気分転換になった。

8/7/2023, 9:06:36 AM