ガルシア

Open App

 生きる意味を問われれば、私は答えることができない。生きる目的、生きる理由。ワードを変えても何ひとつ頭に浮かぶものは無いのだ。酒は飲まない煙草も吸わないギャンブルになど毛頭興味も無い。我ながらつまらない人生だと思う。
 趣味とか好きなこと、ないんですか?
 強いて言えば、休日に静かな喫茶店で文庫本を読むくらいだ。興味津々といった大きな目で私に問う彼女に答えると、良い趣味じゃないですか、と微笑む。どうやら彼女も読書を好むらしく、挙げられた好きな本に私が反応を示すと嬉しそうに見上げてきた。正反対な彼女と愛読書が同じだとは思いもしなかったものだが、それは彼女も同様らしい。嬉々としておすすめだと他の本を挙げ、今度貸します、と興奮して目を輝かせる様子は小型犬に似ている。
 あれが好きなら絶対気に入りますから。そう言われては多少興味を惹かれることは否定できない。私の生に、彼女に勧められる本を読んでみたいからという些細な動機が生まれたのだと感じる。大したものではないが、今はとりあえずこれでいいだろう。ほんの少しだけ人生が豊かになった気がして、細い指が名残惜しそうに離れかけていた一七〇円のココアを購入し手渡した。


『生きる意味』

4/27/2023, 11:04:32 AM