かたいなか

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「防衛省運用の、防衛通信衛星ひとつの愛称。
某特急列車。楽曲の名前。酒の名前にも複数。
前々回の『心の灯火』で紹介した『四つの署名』、
『自分の中に秘め持つ小さな不滅の火花
(little immortal spark concealed about him』
の『spark』も『きらめき』って一応訳せるわな」

他には「命のきらめき」とか?
某所在住物書きはスマホに映る、輝きの赤い輪を見つめた――「きらめき」や輝きの解釈は人それぞれなのだろう。それがどう見えるか、どう感じるか、「何を連想するか」。

「去年はたしか、財布から出したカードの『光の反射』ってことで、きらめきのハナシを書いたわ」
ぶっちゃけエモいハナシが不得意だから、今回も日常の生活感マシマシでお送りするわな。
物書きはため息を吐く。今回も今回だが、たしか次回のお題もこの「きらめき」と同等に難題なのだ。

――――――

最近最近の都内某所、某職場某支店の昼休憩。
久しぶりに寝坊した男性従業員の名前を付烏月、ツウキというが、昼食の準備もコンビニでの現地調達の余裕も無かったらしく、
ランチボックスから、減塩フワフワ食パンとツナ缶と、チューブ入り個包装マヨネーズに自作のマーマレードやいちごジャムなど取り出して、
とん、とん。己のデスクに並べている。

隣の席の後輩もとい高葉井は興味津々だ。
申し訳程度のカット野菜は袋入り。リーフレタスにラディッシュ、オニオン等々が少量ずつ。
袋に値引きシールが貼られている。
消費期限は今日だという。

「ナンデ?」
「だから。俺、寝坊しちゃったんだって」
「なんで?」
「えー。 藤森が悪の組織に捕まって魂のきらめきを抜き取られそうになってたから救出ミッション」

「それなんて異次元ユニバース?」
「昨日藤森とメシ食ってハナシしてたらバチクソ遅い時間でしたってのを隠蔽したいユニバース」

ほら、アレだよ。
大きな大きなアクビに、まばたき数回。目尻に生理現象として、涙のきらめきがひとつ。
付烏月はツナ缶を開けて、マヨチューブをにゅんにゅん。中にブチ込み、かき混ぜる。
「今年の3月、ウチの本店に藤森の元恋人さんが乗り込んできて、5月まで仕事してたでしょ?」
ツナマヨとなったツナ缶の中身は、油漬けに使われたアマニ油をまとい、食パンに塗られた。
「藤森の行きつけの茶っ葉屋さんがね。
執着強火元恋人さんの現在の情報を入荷しまして」

「元恋人さん……加元さんのことだ」
「そうそう」
「8〜9年前に、藤森先輩の心だの何だのをズッタズタにしたくせに、去年、今更になって『やっぱりヨリを戻そう』って押し掛けてきた」
「そうそう」

「どしたの」
「東京離れて、故郷に戻って、相変わらず恋人候補に『地雷ガー』『解釈違いガー』って自分の理想押し付けてるらしいよん。茶っ葉屋さんの茶葉仕入先さんが偶然ターゲットになったらしくって」
「わぁ。まじ」

恋に恋、恋人はアクセサリー、呼吸するように恋。
本人も多分苦しいだろうけどね。大変だね。まぁ俺の友達傷つけた時点でギルティーだけど。
ため息ひとつ吐いて、付烏月がツナマヨサンドに、すなわちモフモフもっちりの食パンに歯をたてる。
ひとりで弁当を突っついていた真面目な新卒も、心細くなったのか申し訳無さそうに近づいてきて、
そして、調理も何も為されないままサンドイッチの材料だけランチボックスに入れてきた付烏月の昼食を学習してしまった。 これは便利である。
「新卒ちゃん。コレ、多分真似しちゃダメな付烏月さん。見習っちゃダメな付烏月さん。ね」

「『見習っちゃダメ』は、俺じゃなくて例の執着強火で理想押しつけ厨な元恋人さんの方じゃない?」
食材詰めて職場でサンドイッチ作るのは、いわゆる合理的な「寝坊からの復帰術」だと思うけどなぁ。
ツナを食べ終えた付烏月はマーマレードサンドを作り、ひとくちサイズに切り分け、新卒と高葉井の前に差し出す。「おひとつどーぞ」
後者はともかく、前者の真面目な新卒は目に勤勉と好奇心のきらめきを光らせ、付烏月お手製のマーマレードサンドを見つめておったとさ。

9/5/2024, 3:21:07 AM