ひとつぶ

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春爛漫の季節を迎えた今日この頃、先生はいかがお過ごしですか。俺は手紙を書くとか初めてでビビっています。学校は無事進級しました。この春から、受験生です。

先生は覚えていますか。昼休み、教室で寝ている俺を起こして問題を出してきましたよね。

『春を説明しろ』

正直、体育教師の分際で俺の苦手な現代文みたいな問題を出すあたり性格が悪いなと思いました。暫く考えた後に、四季の一つ、と薄い回答をしました。

「教えてやろうか」

そう笑う先生の行く先へ着いて行きました。着いたのは校内にある桜の広場で、先生は地面に落ちている桜の花弁を拾い集めた。

「花が咲き乱れて、光に満ちたこの景色が春。いくぞ?」

先生は集めた花弁を俺らの上に向かって投げました。花弁が空で綺麗に舞って、何枚かは先生の髪に乗っていきました。風に吹かれながら笑う先生は、夢かと疑うほどきらきらしていました。

俺は季節が移り変わることになんの興味もなくて、花も生き物もどうでもよかったんです。なのにそのきらきらに胸を打たれました。もう葉桜だし、天気も曇ってたのに。
あのきらきらが俺の頭に焼き付いてるんです。

今年も同じ広場に来ました。天気は気持ちいい程の快晴で、桜もまだ散る前。俺は賢いから去年よりも良い日に来ました。
でも、きらきらはしていませんでした。

先生のきらきらが強すぎて、もう俺は春を見つけられません。

間違いを教えないでよ先生。俺に正しい春を教えに、俺のいる学校まで戻ってきてくれませんか。




#春爛漫

4/10/2023, 12:57:28 PM