『もう二度と』『記憶』『七色』
朝起きて鏡を見ると、俺の毛の無い頭が七色に染まっていた。
昨日まで普通の肌色だったのに、今では赤、青、黄色と色とりどりだ。
こんな頭で会社に行こうものなら、みんなの笑いもの!
自分のハゲ頭をタネに、俺から笑いを取ることはあるけれどこれは違う!
ゲーミングヘッドなんて、冗談じゃねえよ。
ええい、悩んでも仕方がない。
とりあえず、医者の所へ行こう。
俺は会社に休む連絡をしてから、帽子かぶって病院へと向かった。
□
「どうなされました?」
「見ての通り、頭が七色に光るようになりました。
助けてください」
「ふむ、診てみますね――」
医者はどこからかサングラスを取り出し、俺の頭をまじまじと観察し始める
「分かりました」
「あの、大丈夫でしょうか?」
「ええ、命に別状はありません。
ご安心ください」
「良かった」
「ところで構造色って知ってますか?」
「いいえ……」
急な医者の質問に戸惑う俺。
質問の意図が分からないが、どっちにしても知らないので頭を振る
すると医者は学校の先生の様に、ゆっくりと話し始めた。
「その物質自体には色が無いのに、まるで色を持っているかのように見える現象です」
「あの、よく分からないんですけど……」
「縁遠いものに聞こえますが、意外と身近にありますよ。
DVDやブルーレイディスクの裏面を見た時に、虹色に光るところを見たことがあるでしょう?
光の反射によって、違う色が見える。
これが構造色です」
「へえー、勉強になりました。
でもそれが、俺の頭と何の関係が?」
「アナタの頭の表面が、DVDみたいになっているという事です」
医者から明かされた衝撃の事実!
そんなことあるの!?
「何か心当たりは?」
「あー、最近アメリカから育毛剤を取り寄せまして……」
俺はスキンヘッドを恥とは思ってないが、それとは別にフサフサの髪は欲しい。
つまりはそういうことだ。
「それを使ったと?」
「ええ、一周間くらいですかね。
頭がむずむずしてきたので効いているのだと思っていたのですが、まさかこんなことになっているとは……
先生、直りますか?」
「安心してください。
確かに珍しい症状ですが、若い頃に一度診察したことがあります。
その時の機材もホコリを被ってますが、使えるハズですよ
いやあ、もう二度と診察することが無いと思っていましたよ。
長生きするもんだ」
「先生、はしゃいでませんか?」
「そんなことありませんよ。
では早速治療に取り掛かりましょう」
と言うと、看護師に指示して、機材をもってこさせた。
たくさんケーブルが出ているヘルメットのような物と、それに繋がっているモニターの二つ。
不安になるデザインだが、他に方法があるわけでもない。
俺は渡されたヘルメットを被った
「では始めます。
治療中は何があっても外さないように」
「分かりました」
「ではスイッチオン!」
医者の掛け声ともに、被っているヘルメットが起動して、ほんのり頭が暖かくなる。
不安だったが、ちゃんと起動しているようだ。
医者も何があってもいいように、モニターを見て不測の事態に備えて――
と思っていたら、モニターには映像が流れていた。
古いアメリカの映画のようだ。
なんで治療そっちのけで映画をみているんだ?
沸き上がる怒りを堪え、きわめて冷静に注意する。
「先生、治療中に映画を見るのは止めて頂けませんか?」
「ああ、これですか?
さっき、あなたの頭がDVDになっていると言ったでしょう?
読み込めるんですよ、これ」
「読み込めるんですか!?」
「ええ、前回の時もそうでした。
これが結構楽しくてね。
一緒に見ます?」
「治療は!?」
「大丈夫ですよ。
読み込みと並行して、治療が行われていますので。
たいてい10分くらいで治り――むむっ」
医者が突然、声を上げる。
なにか予想外の事が起こったか?
これ以上のや花きごとは勘弁してくれ
「これは、ケネディ元大統領暗殺の時の記録!?
なぜこんな映像が……」
医者が物騒なことを言い始めた。
ケネディ、といえばアメリカの暗殺された大統領だったか?
育毛剤を取り寄せたのもアメリカからだったし、奇妙な偶然である。
「これは、公開されたものの中には無いものですね……
へえ、こんなことが……」
患者を放置して映像に夢中になる医者。
聞いたことはあるが、俺は興味が無いのでなにが凄いのか分からない。
好きな事は人それぞれだが、せめてダビングして家で見てくれないかな。
「馬鹿な!!
そんな事が!?
となると真実は……」
突然医者が叫んだかと思うと、乱暴にモニターを消した。
あまりの豹変ぶりに、俺は唖然とする。
「これは知ってはいけないことでした。
闇に葬ることにしましょう」
「闇に?
というか治療は?」
「安心してください。
全自動ですから。
それはともかく、お薬出しますので飲んでくださいね」
「え、はい。
それはいいですけど、本当に大丈夫ですか?」
「今の医療で記憶を消すのは造作もありません」
「心配しているのはそっちじゃない!」
「そっちの方が大事です!」
医者の気迫に、俺は気圧される。
一体何が起こっているんだ?
「記憶を消さなければ大変な事になります!
あなたもCIAに命を狙われたくはないでしょう?」
「大げさな」
「マスコミにリークするつもりですか?
そうはいきません。
記憶消去モード!」
「まっ――」
そこで記憶が途切れた。
□
気が付くと、俺は自宅の玄関に立っていた。
なぜ自分はこんなところにいるのか?
何も思い出せない。
「病院に行ったはずなんだけどなあ……」
何か病院に行く用事があったはず。
けれど行った記憶どころか、そのなぜ行こうと思ったのかも思い出せない
もしや夢でも見たか?
「頭の事で悩んでいた気がする……」
分からないことだらけだが、とりあえず自分の姿を見れば何かわかるだろう
俺は首を傾げながら、洗面所の鏡台に向かう。
「うわ、フサフサになってる」
だが鏡に映るのは昨日までの禿げ頭ではなく、盛りに盛られた髪の毛であった。
幻覚かと思い触ってみるも、そこには確かな感触がある。
本物の毛だ。
「やった、やったぞ!」
よく分からないが、髪の毛が生えた。
これでハゲと馬鹿にされない。
俺は喜びに打ち震える
「けど、急に髪の毛が伸びたら会社の奴らになんて言われるか……
今日はいったん坊主にしよう。
一度生えたんだから、つぎも生えるだろ」
俺はバリカンを取り出して、髪の毛を刈っていく。
複雑な気持ちのまま髪の毛を切っていると、そこから七色の頭の表皮が出てきて――
3/29/2025, 7:40:19 AM