セイ

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【蝶よ花よ】

物心ついた頃には私は「花魁」になるための指導を受けてきた。
本当の親は声も顔も知らない。
どんな人だったのか知りたくなった日もあったが、皆優しくてあったかいココでの生活が心地良くてすぐにどうでも良くなった。
先輩に当たるお姉様たちとココで1番偉い地位の楼主様が私の家族であり、親なのだ。

月日が経ち、私は「花魁」になることができた。
お姉様たちや楼主様は凄く喜んでくれた。
花魁になった後も、私の生活はそこまで大きく変わることはなかった。
私自身の価値が上がったことで今までより身分が高いお客様と会うことが多くなった。
だけど、時間を買ってもらった分だけ相手をする日々なことには変わりない。

別に「花魁」という立場や仕事に不満がある訳じゃない。
蝶よ花よと大切に育てられてきて感謝しているけれども、私の心はどこか満たされずに沈んでゆくばかり。
「私」は買ってもらえなければ鳥籠の外には出ることはできないし、この鳥籠にいる間は「恋人ごっこ」を強制される。
別に気持ち良くもないが、お客様の気分を損ねぬようにアッアッと喘いで達した演技をする自分が本当に気持ち悪くて嫌になる。
「花魁」になってからは高値なお陰で呼ばれる頻度が少なくなったからまだマシだけど。

今日も私は完璧な恋人を演じる。
いつか鳥籠の外に連れ出される日を願いながら…。

8/9/2024, 9:52:37 AM