シオン

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 気まぐれで降り立った場所に広がっているのは街とかそういうものよりも廃墟と言った方が正しそうだった。
 コンクリートでできた団地がたくさんある。でもそこに生活感というものは一ミリも存在しない。
 そもそもここの住人は全員生きているのか、存在するのかすら不明だった。
 しばらくそんな廃墟街を進めば開けた場所に出た。
 そこまでは灰色コンクリートの地面だったところが、突然色がついているコンクリートに変わり、カラフルな屋根がついた一軒家が五軒ほど立ち並んでいて、中央に少し高くなった木の地面、そしてそこにグランドピアノが置かれていた。
 高くなった場所を囲うように花壇がそんざいしていた。花は流石に生えてなかったが、かつては住人たちの憩いの場だったことが伺える。
 グランドピアノに触れれば綺麗な音が流れた。
 と、同時に急に暖かな風がふいて、僕の髪を揺らした。何も生えてなかったはずの花壇に色とりどりの花が咲いた。
 まるで廃墟が目を覚ましたかのような感覚に少しだけ楽しい気分になりながら僕は演奏を続けた。
 同時刻、別の場所で元の世界に帰りたがっていたのに洗脳されかけていた男の子がこの世界から突然消えたことも、この世界の理が壊れてしまったこともまだ何も知らなかったのだ。

6/11/2024, 4:07:22 PM