吐いた息が白に染まる。まだ薄っすらと暗い空の下、引かれた手が早く速くと急いているようだった。
「諒!早く行かないと日の出に間に合わないよ!」
すっぴんで髪も櫛でとかしただけの彼女が、目の前で膨れっ面をする。出会ったばかりのころは、いつ会ってもバッチリ化粧で、髪はいつもアイロンで巻いてあって、甘い女子の匂いがしていた。そんな彼女が今ではこうも無防備だと思うと、なんだか胸がくすぐったく感じる。
「何よ、ニヤニヤして」
膨れっ面をさらに膨らませて、まるでリスのようになった彼女は、それでも足を止めない。
「なんでもねえよ。いいから前見て歩け」
後ろから来ていた自転車にも気づかなかった彼女を引き寄せると、少し大人しくなる。
不思議に思いながらも、目的地の海はすぐそこだ。付き合って3年目で初めて一緒に見る初日の出。彼女が楽しみにしていることはよくわかっていたが、いざその日になると自分も楽しみにしていたことに気づいて驚く。
「あ、またニヤニヤしてる」
「だからなんでもねえよ」
下から見上げてくる彼女が、また指摘する。今度はバレないように手で口元を覆ったはずなのに、目ざとい。
「ほら、もう着くぞ」
誤魔化すように前を指差した。
「わあ」
隣から歓声が漏れ出る。
ちょうど水平線から日が昇るところだった。
オレンジ色の光が周りに溢れ出てくる。当たった光は次々とものをオレンジ色に変えて行った。
「綺麗」
ぴったりと横にくっついている彼女の頭を撫でる。彼女はくすぐったそうに笑った。
「来年も見にこよう」
ふと口から出た言葉だった。
オレンジ色にほっぺたが染まった彼女を見ながら、自分が撫でたせいで崩れた髪を手櫛で直してやる。
「うん、また来年も一緒にこよう」
珍しくこちらを見ない彼女の耳だけ、オレンジ色ではなくピンク色に染まっていた。
1/2/2025, 6:18:09 AM