300字小説
三寒四温
春先の三寒四温。物憂げな空の下、傘を手に散歩に出る。
寒風のなか、人気のない公園に白い着物の女性と若草色の着物の女性が仲良く手を繋いで歩いているのを見かけた。
「この気候の不順ななか、後を頼みましたよ」
「私の季節は短く、すぐに夏の姉様にお渡しするかもしれませんが確かに」
ごうと強い南風が吹く。思わず、目をつむり、まぶたを開けると二人の女性の姿は消え、沈丁花の澄んだ香りが微かに鼻に届いた。
『今日、北陸地方に『春一番』が吹きました』
地方局のニュース番組のアナウンサーが画面の向こう側から告げる。
カーテンの向こう、目の端に夕刻の庭をすぅっと通る若草色の着物の女性の姿が映る。庭の白梅の蕾がまあるくほころんだ。
お題「物憂げな空」
2/25/2024, 12:33:34 PM