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君の背中

最後にあなたの背中に負ぶさった日のことを覚えています。

あれは、祇園祭の夜でした。新しい浴衣に下駄で夕方から喜んではしゃぎ、家族で見物に出かけた最後の花火大会でした。その帰り道、はしゃぎ過ぎてぐずり出し、あなたに負ぶさった。新しい下駄の鼻緒が痛くて母さんが下駄を持ってくれて、私は裸足であなたの背中でうとうとしはじめた。

記憶の中の一番古くて一番ハッキリとした記憶。

あの頃あなたの背中は大きくて、ちょっと煙草の匂いがした。いつの間にか、あなたの背中で揺られながら眠りに落ちて、気づけば朝を迎えていた。何時までもこんな日が続けばと想うほど愛されていた。あれが、最後のおんぶだったかなぁ、それから三人で夜祭りに出かけることもなくなった。

何故だか私は、その日は永遠に心の中に残るけど、この日は何時までも続かないと、その頃から気づいていた。何故だろう、母さんが早くから病気がちで伏せっていたからだろうか?

あの頃の私は、いつか来る、そう遠くない別れの日を予感して時々無性に不安になっていて、そんな時はいつもあなたの背中に負ぶさった最後の日のことを思い出していた。

赤い金魚の柄の浴衣に赤い絞り模様の兵児帯、赤い鼻緒の下駄、父さんの紺色の浴衣黒い帯、母さんの白に藍色の百合の花の模様の浴衣に赤い帯、お揃いの赤い鼻緒の下駄。

君の背中、あなたたちの後ろ姿がはっきりと想い出せる。一番古くて鮮明な記憶。

輝いて光っている、美しい日々。
心の奥の額縁に何時も飾ってある、想い出の風景。

許される為に謝るな、簡単に許しを請うて謝るくらいならするな!よく考えて道を選びなさい。

失敗をおそれずに歩いて行きなさい、人生には勇気が必要だ、後から来た人に追い越されても、突きどばされても、自分の選んだ道に言い訳はせず踏みしめて、ひたすらに歩きなさい。そう約束した。

サヨナラは言わない。君の背中に、二人とも、いいえ皆にまた会えると信じているから。

待ちぼうけして、日が暮れても、この道は、あなた達の元へと続いていると信じているから、自分の道を踏みしめて進みます。

喜びの日も悲しい日も、何時も瞼を閉じればあの日が浮かぶから、花が咲き枯葉になって雪が降っても、また季節は流れ、私が落とした種も花が咲く。

私が生きた道を、決して傲らず怠らず君が大地を味わいゆっくりと踏みしめて歩いた道を、私も、私が決めた道をゆっくりと歩く。全てこの心が決め選んだ道をゆっくり味わいながら私のペースで、追い越して行く人なんかに気を取られずに、あ・る・く。

あなた達は知っていてくれると信じているから、大丈夫です。絶対に約束を守り完走します。

待っていてくださいね、きっとゴールでまた会いましょう。

さよならは言わないけれど、ひとつだけ伝えたい、かけがえない人生をありがとう。

最後に再会する

君の背中に…。


「年年歳歳 花相似たり
 年年歳歳 人不同 」   

後書き

この後
「君のことを、守りたい」なんて分かった様なこと言う男に何人出会ったろうね、「守ってやる」「俺を信じろ」「…たらいいね」のタラレバ人。そんなことを言う奴は、自分が気持ち良くなりたいだけの人。流行に振り回されて走ってる人たち。寄り添う〜優しくありたいって口先だけ口尖らせて言う自慰行為のロクデナシ野郎だ。そんなことが分かったころに「俺の子の母親になって欲しい」と言われて、誰かの為に生きることを覚えました。「君を守ってやる」「幸せにしてやる」「僕を信じろ」なんて寒くて気持ち悪い台詞ではなくて、「幸せになろう」そう言った人と共に生きる場所を見つけて、父さんと母さんみたいに自分が幸せにする、創造する場所を見つけましたとさ、めでたしめでたし。

自分が幸せになることが、誰かを幸せにする、はじめの一歩。


おしまいwww 


令和7年2月9日 

             心幸 

2/9/2025, 11:45:10 AM