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『ひなまつり』 3月3日

 3年間通った高校を卒業するという日の朝、懐かしい雛人形が玄関に佇んでいました。ふと、忘れていた記憶がつられて引き出されます。
 幼い頃、そこに飾られるお雛様が好きではありませんでした。人間味のない冷たい眼をもったあの人形がこちらを見つめているようで、何度も片付けてもらおうと母を説得しにいきました。
 その度に母はくすりと笑って言うのです。お雛様がかなちゃんを見守ってくれるんだよ、と。その優しい声色と眼差しに言い返す気も萎んで、ひなまつり前後の数日は我慢していた思い出があります。
 しかしそんな日々も長くは続かず、いつからか、お雛様をだす習慣もなくなってしまいました。今、もう何年も見ていなかったその顔を見ると、いつの間にか柔らかくなったように感じました。
 おめでとう、そう言って微笑まれたように感じました。

3/3/2024, 11:31:36 AM