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58赤い糸

ある日突然、人どうしを繋ぐいろんな「糸」が見えるようになった。
赤い糸は運命の相手。
ピンクの糸は親子や血縁。
このあたりはとても分かりやすかった。街中で一緒にいる相手につながっていることがほとんどだからだ。
青い糸は「命を救う相手」これはテレビで事故現場を見ていて分かった。
医師や救命士から伸びていることが多かった。
灰色の糸は「憎んでいる相手」。これも少し注意してみると、すぐに分かった。上司と部下の間に散見されるし、ピンク色でつながる血縁の糸がまだらに灰色がかっている場合が割にある。親子と言えど、仲のいい者同士ばかりではない。また、裁判を傍聴してみると遺族と犯人の間にあることが多かった。
そして、黒い糸。
これは、いずれどちらかがどちらかを殺す相手だ。
さすがにめったにお目にかからない。
はじめて見かけたときに興味を惹かれ、黒い糸の伸びた男の後を付けたら、飲み屋に入っていった。糸のつながる相手はわからず、尾行はそこでやめたが、数か月後、彼は酒で作った借金を返すためにほとんど行きずりで強盗殺人を犯し、ニュースに顔写真をとりあげられた。それでなるほどと思った。
ところで今、私の小指からも黒い糸が伸びている。
つまり私も、誰かを殺すか殺されるということだ。
私には殺したいような人間はいない。殺される心当たりもない。
「憎しみ」の色である灰色とまだらになっていることもない。血縁の色であるピンクの気配もない。
つまりは、もともと憎しみを抱かれていない、大した関係もない相手から、何かのきっかけで殺されるか……あるいは殺してしまうということだ。
非常に悩ましいところだが、私は今日、完全な防備をして、この黒い糸をたどろうと思う。
たどった先にいるのはいつか私を襲う通り魔犯なのか、いつかは私が殺したくなる相手なのか、それは分からない。
ただ、黒い糸を生やしたままにしておくわけにもいかないのだ。
つながっている相手を見つけたとき、どうなるのだろうか?
それは諸兄の想像にお任せする。
防備はするが、武装はしていかない。
私は誰をも、傷つけたくはない。だから、防備はするが、武器は盛っていかない。その事実をわかってほしくて、あとにも残るようにこれを書いている。では、行ってきます。糸をたどりに。

7/1/2023, 10:00:19 AM