夏の甲子園行きの切符をかけた予選の決勝
俺は3年間、レギュラーにはなれなかったけれど、それでも、その結果に不貞腐れる事なく同級生や後輩への応援やノック練習などの支援を続けてきた。その結果、3年最後の記念打席の為の意味だとは思うけれど、俺は甲子園行きをかけた試合の代打として初めて選ばれた。その話を監督から聞いた時は嬉しくて、その日の夜は眠れなかった
そんな俺の夏の3年間がもうすぐ終わろうとしていた。
延長戦12回裏2死(アウト)ランナー無し1-0ので負けている場面。バッティング練習をしていた監督が俺を呼んだ
「記念打席だ。悔いのない様に1打席振ってこい」
監督の力強くも優しい言葉に、俺の緊張は自然とほぐれた
「はい」
そこで俺は打順を確認して驚いた
3番だった…俺の後では4番の同級生が声を飛ばしてきた
『俺の事は気にするな。3年間何度も打ってきた。お前の応援があったから、ここまで来る事ができた。俺たちは全力を出してここまで来たんだ。だから、お前も全力で1打席を楽しめ』
その言葉に涙が溢れそうになった。
『お前が出塁したら俺がホームラン打って逆転してやる。約束だ。皆んなで甲子園に行こうぜ』
同級生は…いや…チームメイトは誰一人甲子園の可能性を諦めてはいなかった。心の何処かで諦めていたのは監督と俺だけだった。俺はその恥ずかしさから唇を強く噛み締めてバッターボックスに入った
それから気がついたらカウントは、3ボール2ストライになっていて、俺はファールも含めて11球も粘っていた。
スタンドからは俺への応援の声が聞こえてくる
そして相手投手が12球目を投げた時、それがストレートだと何故か直感し、俺は渾身の力で金属バットに球を叩きつけた
金属バットからは甲高い音が鳴り響き、俺の打球は高く高く
真っ直ぐ進み、バックスクリーンを直撃した。それと同時に客席からは大きな歓声が巻き起こった
俺が初打席 初ホームラン…しかも同点
ベースをゆっくり走りながら実感のない事実を噛み締めた
(まだ、甲子園への道が繋がる)
そう考えたら自然と口元が緩んだ。その緩んだ口元でホームベースを一周して仲間の待つ所へと戻った俺は、仲間に笑顔で
もみくちゃにされた。その最中、再び甲高い音が聞こえた。振り返ると4番の同級生がホームランで相手チームに試合の終わりを伝えた。
それから俺たちは甲子園の準決勝まで進んだが、そこで圧倒的な大差で敗れ、俺の3年間の夏は終わった。
※この物語はフィクションです
高く高く 作:笛闘紳士(てきとうしんし)
10/15/2024, 9:50:09 AM