G14(3日に一度更新)

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113.『贈り物の中身』『冬の足音』『秘密の手紙』


 『オシャレは常に命がけ』。
 それが今を生きる、私たち女子高生の合言葉。

 今も昔も女子高生は、『カワイイ』を追求してきた
 アクセサリー、改造制服、メイク、髪染め……
 教師や親からの説教など、なんのその。
 たとえ、小遣いをカットされようと止まることはない。
 どんな困難が待ち構えようとも、カワイイ道を突き進むのが、女子高生という生き物なのだ。

 だというのに、最近の女子高生はなってない。

 冬の足音が聞こえてくる今日この頃。
 寒いからと言って、スカートの下にジャージを着こんでくるクラスメイトが増えたのだ。
 嘆かわしい。
 何が嬉しくてジャージを履かないといけないのだ。
 ダサすぎる!

 中には人肌に似せたストッキングを着込む友人もいる。
 当たり前のように『オシャレでしょ?』と振舞うが、私の目は誤魔化せない。
 努力は認めるが、それはニセモノ。
 本物の美脚を見せつけるのが、真のオシャレ!
 たとえ真横から冬の足音が聞こえようとも、素肌で冬の街を練り歩くことこそが、女子高生の生き様ではないのか!

 見よ!
 この無駄のない足を!
 筋トレに励んで作り上げた自慢の足だ。
 鍛えられた筋肉で構成された足は、ほんのり蒸気が立ち上がっている。
 新陳代謝が活発で常に暖かく、ジャージを履けば汗で蒸れるほど。
 やはり筋肉、筋肉がすべてを解決する。

 ――ただ鍛え過ぎたのか、周囲からの評判は悪い。
 友人からは『キモイ』とバッサリ切り捨てられるし、男子から『俺より逞しい』と自信を喪失させてしまっている。

 思ってたとのは違う反応に、私はしょんぼりした。
 オシャレをして、モテモテになるのを夢見ていたのに、誰もが私を遠巻きに見る始末……
 まさに本末転倒であった。

「来年の冬は、無難にジャージを履こう」
 私は決意するのだった――


 そして、決意を固めた日の放課後。
 帰ろうと下駄箱に行くと、そこには手紙が入っていた。

「これは…… まさか……」
 愛をしたためた秘密の手紙――まさかラブレター!?
 驚きと興奮で体中が熱く沸き上がり、頬が紅潮する。
 男子の反応を見て正直諦めていたが、まさか本当にモテるとは思わなかった。
 私の元に、冬を通り越して春が来た!

 感動に打ち震えつつも、私は誰にも見られないようカバンの中に手紙を入れる。
 知り合いに見られたら大変なことになるからだ。
 女子高生はオシャレも好きだが、コイバナも大好きなのである!

 幸い、周囲に怪しんでいる人はいなかった。
 私はさりげない動作で校内に戻り、トイレに入る。
 そこならば誰にも邪魔が入らないからだ。
 手紙にはこう書かれていた。

 『あなたの素敵な足に惚れました。
  伝えたいことがあるので、空き教室まで来てください。
  待ってます』

 指定の時間は10分後。
 場所は遠いが、走れば余裕で間に合うはずだ。
 私のオシャレに気づくとは、きっと素晴らしい男性に違いない!
 待っていろよ、まだ見ぬ運命の人よ!

 私は急いで指定の場所に駆けつける。
 口から出そうなほど高鳴る心臓を押さえ、私は教室のドアを開ける。
 そこにいたのは――


 大人しそうな、小柄で地味な女の子だった。


 私は意表を突かれた。
 完全に男子だと思っていたからだ。
 呆気に取られていると、少女は私に気が付いた。

「ありがとうございます。
 手紙、読んでくれたんですね」
 彼女は緊張しているのか、ギクシャクとまるでロボットの様に近づいて来る。
 その顔には、緊張と不安と期待がこもっている。

 やはり告白なのだろう。
 しかし悪い気はしない。
 同性は範囲外なのだが、こうして好かれるのは純粋に嬉しかった。

 だが彼女の気持ちは受け入れられないのも事実。
 彼女もそれは覚悟しているはず。
 せめて茶化したりせず、誠実に断ろう。
 そう思っていると、彼女は歩みを止めた。

「先輩の事、ずっと見てました。
 その、足がとてもステキで……」
 彼女の顔が赤くなるにつられて、私の顔も赤くなる。
 なんと、本当にこの子は私の足に惚れてくれたと言うのか!?
 ちょっとだけ気持ちが揺らぐ。
 『理解してくれない男子より、やはり分かってくれる女子の方が……』
 そんな事を考えていた。

「これ、受け取ってください!」
 一瞬考え事をしたのが悪かったのだろう。
 彼女が箱を勢いよく差し出してきたので、反射的に箱を受け取ってしまった。

「先輩の事を考えて選んだんです」
 そう言ってモジモジする彼女は可愛らしい。
 少しだけ罪悪感を抱きつつも、受け取った物をそのまま突き返すの気がひける。
 私は少し悩んだ後、箱の中身を開けることにした。


「えっ?」
 私は眉をひそめる。
 中身は、どう考えても告白に似つかわしくないシロモノだった。
 彼女はどういうつもりで、これを渡してきたのだろう?
 好意的に見ても告白の際に渡してくるような神経が分からない。

 『どういうつもりなのか?』
 私が説明を求めるように視線を向けると、彼女はハッとした顔をして、自分のポケットを漁る。
 そして一枚の小さな紙を取り出した。

「我が山岳部に入部してください。
 先輩なら、富士山だって登頂できますよ!」
 出されたのは、部活の入部届。

 それで私は全てを悟った。
 彼女が言った、『先輩の足が素敵』という意味も……
 贈り物の中身の意味も……

 もう一度、箱の中を見る
 そこに入っているのは、登山用のごつい靴。
 底が厚く、金具までついた、オシャレの『オ』の字もない、実用に即した本格的な靴だ。

「登山は、時に命を落とすこともある過酷なスポーツですけども……
 先輩の逞しい足なら大丈夫!
 どんな岩山も踏み越えられます」
 キラキラして、期待を込めた目で見つめて来る彼女。
 『これは断れそうにないな』と、私はため息を吐いた。

「オシャレって、本当に命がけだなあ……」

12/10/2025, 12:29:52 PM