113.『贈り物の中身』『冬の足音』『秘密の手紙』
『オシャレは常に命がけ』。
それが今を生きる、私たち女子高生の合言葉。
今も昔も女子高生は、『カワイイ』を追求してきた
アクセサリー、改造制服、メイク、髪染め……
教師や親からの説教など、なんのその。
たとえ、小遣いをカットされようと止まることはない。
どんな困難が待ち構えようとも、カワイイ道を突き進むのが、女子高生という生き物なのだ。
だというのに、最近の女子高生はなってない。
冬の足音が聞こえてくる今日この頃。
寒いからと言って、スカートの下にジャージを着こんでくるクラスメイトが増えたのだ。
嘆かわしい。
何が嬉しくてジャージを履かないといけないのだ。
ダサすぎる!
中には人肌に似せたストッキングを着込む友人もいる。
当たり前のように『オシャレでしょ?』と振舞うが、私の目は誤魔化せない。
努力は認めるが、それはニセモノ。
本物の美脚を見せつけるのが、真のオシャレ!
たとえ真横から冬の足音が聞こえようとも、素肌で冬の街を練り歩くことこそが、女子高生の生き様ではないのか!
見よ!
この無駄のない足を!
筋トレに励んで作り上げた自慢の足だ。
鍛えられた筋肉で構成された足は、ほんのり蒸気が立ち上がっている。
新陳代謝が活発で常に暖かく、ジャージを履けば汗で蒸れるほど。
やはり筋肉、筋肉がすべてを解決する。
――ただ鍛え過ぎたのか、周囲からの評判は悪い。
友人からは『キモイ』とバッサリ切り捨てられるし、男子から『俺より逞しい』と自信を喪失させてしまっている。
思ってたとのは違う反応に、私はしょんぼりした。
オシャレをして、モテモテになるのを夢見ていたのに、誰もが私を遠巻きに見る始末……
まさに本末転倒であった。
「来年の冬は、無難にジャージを履こう」
私は決意するのだった――
そして、決意を固めた日の放課後。
帰ろうと下駄箱に行くと、そこには手紙が入っていた。
「これは…… まさか……」
愛をしたためた秘密の手紙――まさかラブレター!?
驚きと興奮で体中が熱く沸き上がり、頬が紅潮する。
男子の反応を見て正直諦めていたが、まさか本当にモテるとは思わなかった。
私の元に、冬を通り越して春が来た!
感動に打ち震えつつも、私は誰にも見られないようカバンの中に手紙を入れる。
知り合いに見られたら大変なことになるからだ。
女子高生はオシャレも好きだが、コイバナも大好きなのである!
幸い、周囲に怪しんでいる人はいなかった。
私はさりげない動作で校内に戻り、トイレに入る。
そこならば誰にも邪魔が入らないからだ。
手紙にはこう書かれていた。
『あなたの素敵な足に惚れました。
伝えたいことがあるので、空き教室まで来てください。
待ってます』
指定の時間は10分後。
場所は遠いが、走れば余裕で間に合うはずだ。
私のオシャレに気づくとは、きっと素晴らしい男性に違いない!
待っていろよ、まだ見ぬ運命の人よ!
私は急いで指定の場所に駆けつける。
口から出そうなほど高鳴る心臓を押さえ、私は教室のドアを開ける。
そこにいたのは――
大人しそうな、小柄で地味な女の子だった。
私は意表を突かれた。
完全に男子だと思っていたからだ。
呆気に取られていると、少女は私に気が付いた。
「ありがとうございます。
手紙、読んでくれたんですね」
彼女は緊張しているのか、ギクシャクとまるでロボットの様に近づいて来る。
その顔には、緊張と不安と期待がこもっている。
やはり告白なのだろう。
しかし悪い気はしない。
同性は範囲外なのだが、こうして好かれるのは純粋に嬉しかった。
だが彼女の気持ちは受け入れられないのも事実。
彼女もそれは覚悟しているはず。
せめて茶化したりせず、誠実に断ろう。
そう思っていると、彼女は歩みを止めた。
「先輩の事、ずっと見てました。
その、足がとてもステキで……」
彼女の顔が赤くなるにつられて、私の顔も赤くなる。
なんと、本当にこの子は私の足に惚れてくれたと言うのか!?
ちょっとだけ気持ちが揺らぐ。
『理解してくれない男子より、やはり分かってくれる女子の方が……』
そんな事を考えていた。
「これ、受け取ってください!」
一瞬考え事をしたのが悪かったのだろう。
彼女が箱を勢いよく差し出してきたので、反射的に箱を受け取ってしまった。
「先輩の事を考えて選んだんです」
そう言ってモジモジする彼女は可愛らしい。
少しだけ罪悪感を抱きつつも、受け取った物をそのまま突き返すの気がひける。
私は少し悩んだ後、箱の中身を開けることにした。
「えっ?」
私は眉をひそめる。
中身は、どう考えても告白に似つかわしくないシロモノだった。
彼女はどういうつもりで、これを渡してきたのだろう?
好意的に見ても告白の際に渡してくるような神経が分からない。
『どういうつもりなのか?』
私が説明を求めるように視線を向けると、彼女はハッとした顔をして、自分のポケットを漁る。
そして一枚の小さな紙を取り出した。
「我が山岳部に入部してください。
先輩なら、富士山だって登頂できますよ!」
出されたのは、部活の入部届。
それで私は全てを悟った。
彼女が言った、『先輩の足が素敵』という意味も……
贈り物の中身の意味も……
もう一度、箱の中を見る
そこに入っているのは、登山用のごつい靴。
底が厚く、金具までついた、オシャレの『オ』の字もない、実用に即した本格的な靴だ。
「登山は、時に命を落とすこともある過酷なスポーツですけども……
先輩の逞しい足なら大丈夫!
どんな岩山も踏み越えられます」
キラキラして、期待を込めた目で見つめて来る彼女。
『これは断れそうにないな』と、私はため息を吐いた。
「オシャレって、本当に命がけだなあ……」
12/10/2025, 12:29:52 PM