たぬたぬちゃがま

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「好きです。」
シンプルな告白をした。
それまではあれこれ考えた。どこに誘って、雰囲気よくして、あれこれあれこれ。
結果。何も言い出せず、仲の良い同僚に終わり、撃沈。君はそんなこともつゆ知らず家でお酒を楽しんでいるんだろう。
もうそういった場面は懲り懲りだった。

彼に電話をするのは初めてだった。職場の連絡網を使うのは職権濫用だか、越権行為になるのだろうか。
でも、この気持ちはどうしても伝えたかった。
羅針盤の指す方向に従え。その言葉に背中を押された。
「どうしても、好きなんです。」
さらに言葉を重ねてみた。沈黙が長い。飽きられただろうか。嫌われただろうか。
長い沈黙のあと、彼はそっと話し始めた。
「……あのさ、いま俺、酒飲みながらゲームしてたんだよね。」
「はい。」
「……そっちも飲んでる?」
「……はい。」
深いため息が聞こえた。あぁ、これはもうだめかもしれない。
「今週末、金曜日。仕事終わったら飲みに行こう。」
「え?」
「返事を電話でするのは、その、あれかなって。美味い店だから。うん。」
「は、はい!ぜひ!」
ぷつりと電話は切れた。切れてから、好きと言う感情に肯定も否定もされていないことに気づき、私は頭を抱えた。


プレイしていたゲームを一旦中断し、俺は頭を抱えた。
全く意識はしていなかった。いなかったからこそ、よくわからない感情がぶわっと湧き上がる。
かっこつけてしまったが、店のアテなどなにも思いつかない。男同士で行く飲み屋でいいはずがないことだけはわかるが、それ以外は全くノープランだった。
「マジかぁああああ……。」
嫌い、ではない。好き、はわからない。
それでも真剣さは伝わってきた。酒飲んでたけど。
「シラフの時はどんな顔して話すんのかな……。」
羅針盤の針の向きが変わったのをどこかで感じた。


【心の羅針盤】

8/8/2025, 8:20:34 AM