『遠い日の記憶』
季節は春、時刻は真夜中、白木蓮の花弁が舞う丘に居るのは大人の女性が一人。
清楚可憐の言葉が良く似合う美しい女性で、彼女は風に黒髪を靡かせながら静かに涙を流していた。
何故泣いているのかなんてわからない。どこの誰なのかすらわからない。なのに、俺の心はざわめき始めて、その涙を止めたくてそっと手を伸ばしてみた。けれど、その手が彼女に届くことはなく。
何かを伝えなければいけない気がしたのに、それが何かも分からないし、声すらも出てこない。
ただただ、心音が早まり胸が熱くなっていくだけ。
これは俺がよく繰り返し見る夢の一部。そう、たかが夢。なのに見た後は妙に気持ちが落ち着かなかった。
記憶はまるっきりない。心だけが勝手に反応を示す。
これは俺も知らない、俺の魂だけが知っている遠い遠い日の記憶。
7/18/2022, 8:48:23 AM