大量の豚骨を強火で長時間炊いたのだろう。白濁したスープの旨味は強烈で、しかも下処理が丁寧だからか、臭みは全くない。一緒に煮込まれた香味野菜の風味も豊かで、仕上げにかけられたマー油がガツンとしたアクセントになっていた。
「どうだ?」
ずるずると加水率の低い極細麺を啜りながら、先輩が鼻息荒く、僕を見る。
「旨いっす」
「だろ?」
眼鏡を湯気で曇らせながら、先輩は子供みたいに笑った。
ラーメンと阪神をこよなく愛する先輩は、アクの強さと気の強さをミキサーにぶち込んで煮込んだような性格をしていた。
小柄で美人だからちょっかいを出す奴らも少なからずいたが、新入社員の頃に、露骨なセクハラをしてきた部長の腓骨をへし折ったという噂が流れてから、そういう手合いは潮が引くように離れていった。
僕は巨人ファンだが、ラーメンはとにかく好きで、先輩とは妙に気が合った。向こうはぼくを、できの悪い弟か、郊外のラーメン屋に連れて行く足くらいにしか思っていないかもしれないが。
「やっぱり、私はトンコツが好きだわ」
先輩はものすごい勢いで麺を啜り込みながら、幸せそうに笑う。
「おっちゃん、替玉! バリで! 魚介醤油系もいいけど、こういう一本気な味の方が気持ちがいいわね。あんたはどう思う?」
「僕も好きですね。あ、僕も替玉ください。ハリガネで」
本当は、野球よりも、ラーメンよりも、先輩が一番好きです。
言えずに流れた言葉を、僕は麺と共に啜り込んだ。
(I LOVE…)
1/30/2024, 2:24:30 PM