一生忘れられない1日から月日が流れた。
オレは今1人でアパートの冷たい床の上で寝転びカーテンの無い窓から夜空を見上げている。
今でも常にあの日が思い出される。
上司を切りつけた時の限界だった自分の感情、思っていたより力が入り深く傷付けた時の手の感触。
鮮明に頭に焼き付いている。
それからオレは殺人未遂で捕まったが、初犯である事と他の社員の上司の発言内容、オレが鬱の初期症状があったという証言、何より強かったのは上司の息子さんの父親がいつも高圧的な態度で接していた事と成績が悪いと酷い言葉で罵倒されていて我慢の限界だった事、上司の奥様も上司に注意をしたが聞いてくれず、次は奥様を罵倒した事の証言で切りつけた事は重大な犯罪だが、同情の余地ありと判断され執行猶予が付いた。
その後の上司は重傷で入院したが、奥様とは離婚して息子さんも奥様の実家で暮らしていると聞いた。
あの日からオレは自分のした事で誰一人として幸せにならなかった事への懺悔の日々を過ごしている。
あの人と離れて暮らすようになって何日が過ぎただろうか。
あの日に至るまでに私にできる事はたくさんあったように思っている。
もう少しお互いに話ができていれば良かった。
あの人の様子から察する事もあったのに言いたくないこともあるだろうと聞かなかった後悔。
自分も辛い思いをした事があるからこそ分かることも あったのに行動に移せなかった。
今までの後悔とこの先の事を考えるとまだ答えは出せずにいる。
たくさんの方から色んな話を聞いてあの人の事を悪く言う人は少なかった。
会社の人も関わりたくないと思う気持ちがあることはわかる。私が同じ立場にいたら何もできず見て見ぬふりをするだろう。
相手の弁護士の方から伝えられた上司の奥様の言葉も分かる。
家の旦那があなたの旦那さんにした事で旦那さんは本当に辛い思いをされたと思います。だけど、人を傷つけてしまった行為は許せないでいます。こちらの思いで執行猶予を長くさせていただきました。この間に鬱病の治療と反省をして、二度と同じ事が無いようにして頂きたいと思います。
あの人のことだから今は1人で毎日懺悔の日々を過ごしているのだろう。
ちゃんと食事はできているだろうか。
今日は少しでも眠れただろうか。
毎日あの人を思っている。
窓の外の夜空を見つめる。
あぁ今日は私の好きなキレイな三日月。3回目のデートでまだお互いに話したくて、私のアパートの近くの公園でもう少しだけと言いながら長く色んな話をしたあの日の夜の月と同じだ。
あの人も今日の月を見てるだろうか。
オレは窓の外の月を見つめて3回目のデートを思い出した。
今頃妻はどうしているだろうか。
あの時は妻に会うのが楽しみだった。いつもの日常の他愛のない話をするのが楽しかった。
結婚していつからそんな他愛のない話をしなくなったんだろうか。オレに余裕がなくなったからか。
そういえばあの公園で話していた時に三日月が好きだって言っていたな。
妻も今日の月を見ているだろうか。
いつかあの公園で見た妻のあたたかい笑顔が見れる日が来るだろか。
いつかあの公園でみたあの人のぎこちないけど何故かこちらも笑顔になってしまう笑顔が見れる日が来るだろうか。
そんな思いを「月に願いを」込めて。
5/27/2024, 12:32:03 PM