シオン

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「好きだよ、権力者のこと」
 ユートピアは毎日が同じ日常の繰り返し。いや、そもそも日常という概念がないこの世界では当てはまる表現は見つからない。それでも目が覚めてから寝るまで、大体の人間は、同じルーティーンを繰り返している。
 だから『今日』も『昨日』と同じ日常が繰り返されると勝手に考えていたのだ。だってこれまでそうだったからこれからもそうだろうと、そんな浅はかな予想を立てていた。
 それなのに、今ボクの目の前にいる彼はボクが今まで予想してなかったような言葉を吐いてきた。
 冗談だろうと思った。だって本気で好きなわけがない。彼とボクは敵対しているし、そもそも身分が違いすぎる。恋心をボクに向けられるなんて都合のいい夢くらいでしか起こりえない。だからなるべく落ち着いたような様子でボクは答えた。
「いつもキザのセリフばかり吐いているけれど、とうとうそんなことまで言うようになっちゃったんだね、君は」
 僕がそう言えば冗談だよと誤魔化してくれると思った。いや、誤魔化すんじゃない、そもそも事実ではないなのだから。
 でも、彼は真剣そうな顔でボクの肩を掴んで答えた。
「冗談じゃないんだよ、権力者。本気で僕はきみのことが好きだと言っている」
「ありえないよ、そもそも立場が違うじゃん」
「そういう逆境の方が燃えると思わないかい?」
「…………身分だって違うし」
 ひねり出すように、そういえば、彼は肩をすくめて言った。
「きみは僕の恋心は諦めさせたいのかもしれないけれどね、諦めるつもりはないよ。だってこれは本気の恋だ。たとえきみに拒絶されようと無理矢理にでも僕のものに落とす自信があるよ」
 光のない瞳でそう言われた時、背筋がゾクッとした。この人は冗談で言ってるんじゃない、本気で言ってるんだってそう思った。
 でもそう確信したのは、恋心の話じゃない。たとえ僕が拒絶したとしても、本気で彼のことが嫌いだったとしてもいつの間にか彼の手中に収められているんだそう感じてしまったのだ。
 薄々敵わないような気がするとは思っていたけれど、思ったより彼はボクの何倍も強い気がした。ううん、身をもって分からせられたような気がしたんだ。

9/12/2024, 3:33:31 PM