ほんの一瞬のようだった。
雨上がりの空気に包まれる狭い道に、
一人の女性が現れた。
無防備に、白い肌を惜しげなく出した服を着ている。年は20といったところだ。
雨がやんでいるのに気がつくと、透き通った折りたたみ傘を閉じ、艶のかかった黒髪をサラリと、肩へ、胸へと落とした。
うやむやに空を仰いだ後、私のことをようやく見つけ出した。
二重のぱっちりした瞳を見開き、少し後ずさりする。
私の事をおばけとでも勘違いしたのだろうか、慌てて逃げ出した。
ふっと息をつく。
綺麗な瞳、綺麗な髪、綺麗な肌、綺麗な服。
私にはないものばかりだった。…ないものねだりをするのもこれで何百回目だろうか。
あの人は…『ここではないどこか』で生まれたんだろう。そんな気がした。
あと何回、何十回、何百回、何千回、何万回生まれ変わったら、あんなに素晴らしいものを手に入れられるのだろうか。その為には、『ここではないどこか』を見つけなければ。
私は、血がしたたる傷と痣だらけの体を引きずって、『ここではないどこか』を探して彷徨っていた。
6/27/2024, 11:05:04 AM