『夢と現実』
現実でいい思いをしたことがないので見る夢はだいたい悪夢だ。だいたいはろくでもない思い出の再放送で、切羽詰まったときのことが再現されて飛び起きたりするとあとあと眠れなくなってしまう。脳の悪夢を見る部分だけ切り取って捨ててしまいたい。
「それ、本当にいただいてもいいんですか?」
どこからか声がして見回すも誰もいない。裾を引っ張られる感覚に下を向くと足元に獣がいた。鼻がやや長くてつるりとしたフォルムはバクに似ていたが体色がパステルカラーをしていた。
「わたし実は夢を食べて生きているものなんですけど、悪夢は特に好物でして」
もじもじと照れながら語る様子はかわいいと形容してもいいはずだったが、現実離れした色のしゃべる獣にはあまり関わりたくないと思わされた。
「気が変わらないうちに早く持ってって」
ことを早く済ませようとして言ったものの、どうやってそこだけを持っていくのだろう、とふと思った。
「では失礼して」
すると膝丈ぐらいの獣は形を無くして頭へと飛びかかってきた。脳を直接触られるような感触と聞いたことのない音が耳に直接響くそれはこれまで経験してきた中でもトップクラスに嫌な体験だった。
げっそりした俺に、ホクホク顔のバクらしき獣はしつこいぐらいに礼を言ってどこかへ去っていった。
という夢から覚めてむくりと起きた。どんな夢を見ていたのだったか、思い出そうとすると何もかもがぼんやりして掴めなくなってしまうが、パステルカラーのバクという、現実にはおよそ存在しなさそうなやつのことと、そいつに頭をどうにかされた感触はなんとなく憶えている。そういえば悪夢を見ずに目覚めたのは久しぶりのことだった。
12/5/2024, 3:19:29 AM