詩『記憶喪失』
(裏テーマ・失われた時間)
頭が痛い。
ここは何処だ。
ハテ?
俺は誰だ?
俺は入院していた。
1週間まえに頭を何か鈍器で殴られて路上で倒れていたところを通行人に発見されて救急車で運ばれたらしい。
そして、気がつくと記憶がなかった。
記憶障害にもいろいろあるらしいが俺の場合は子供の頃の記憶も何もない完全な記憶喪失だった。しかもスマホも含め身分の手掛かりになるような物が1つもなかった。
警察官の人は3つ可能性があって、犯人が持ち去ったか、俺が普段から何かの理由で身元の分かる物を持ち歩かないようにしていたか、あるいはその両方か。
警察の人が言っていたが、俺がこの町に住んでいた形跡が全く無いのが不思議で捜査が難しくなっているらしい。
俺は被害者だが、俺が犯罪を犯して逃げていることも視野に入れて捜査していると年配の刑事さんには言われた。
本当は病院の検査は終わっていて退院をいつするか話し合う頃みたいだけど、俺の住まいの本題もあり、犯人の場合の逃亡の可能性もあり、また犯人に襲われる可能性もあることから退院が延びていた。
私を監視するのは病院がいいってことらしい。
何処で生まれて育ったかは言葉の中に混ざる方言である程度分かるらしい。俺は九州、それも福岡じゃないかと言われた。
年齢も見た目と歯からある程度は分かるらしい。
35才前後と言われた。
体の筋肉の付き方から、肉体労働はしていないと判断された。
しかし、柔道などのスポーツはしていた可能性が高く、足腰の太さから歩き回る仕事をしていたんじゃないかと言われた。
特に履いていたシューズの底がかなり擦り減っていて、靴底から採取された種から俺は隣の町の温泉街に行っていたことまで分かったようだった。
調べると、隣町の旅館に泊まっていた客でチェックアウトしないで消えた男性が1名いた。
年齢は37才で東京からの客だった。
堂本翔平。
俺は警視庁の刑事だった。
何も覚えていない。これで仕事に復帰できるのかなと不安になってしまった。
いろいろ詳しく聞くと、俺が刑事になったばかりの時の殺人事件の犯人は逃亡したままになっていて、その犯人を探すのを俺は休日の趣味にしていたようだ。
そして何かに気づいて温泉街に自費でやって来ていた。
警察の許可ももらい翌日、泊まっていた旅館を訪ねた。
何も新しい情報はなかったが旅館の真向かいの旅館にも聞くためにちょっと寄ると、俺が殴られた翌日から辞めたいと電話してきた仲居がいたらしい。それにその日から音信不通の状態らしい。
殺人犯の女は温泉が好きで、それも炭酸温泉が好きなことが分かっていたので炭酸温泉が有名な宿のインスタグラムなどを常にチェックしていて、その宿に泊まった客の写真から女を見つけて確認しにここまで来たようだ。
女は用心深く普段は住み込みだが、隣の町にアパートを借りていて大事なものをそこに置いていた。と俺は思っていた。
しかし、そこに住んでいた男がいた。俺はまったく気づいてなかった。
俺は尾行してアパートを突き止めたが、女に男がいることを知らないまま尾行がバレて、その男によって殺されかけたのだ。
俺の身元が分かりそうな物はすべて男が奪って処分したらしい。そうすることで時間稼ぎもしたかったようだ。俺にトドメを刺さなかったのは、二人殺すと死刑になることを怖れたためだった。
あとで分かったが、殺人事件の方も真犯人は男だったのだ。
犯人はまた逃亡したが捜索のための情報はたくさんあり、監視カメラの活躍もあり、犯人達ははやく逮捕された。
俺は記憶喪失のまま、東京に帰った。
俺の失われた時間は戻る保証はないけど、少しでも思い出すとそれをキッカケにいろいろ思い出すことは多いらしい。
駅まで出迎えてくれた同僚の刑事三人の中に若い女性がいた。
ん?
若い女性の香水を嗅いだ時、ものすごく懐かしいような愛しいような感情が襲ってきた。
なんなんだ?
これは?
「え、り、な、?」
名前だけ思い出した。
他はまだ思い出せないけど、どうやら婚約していたらしい。
俺の人生を、取り返してやる。
絵里奈と二人で。
5/13/2024, 2:06:43 PM