言ノ葉

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【月夜】

黒い天幕を微かに照らす冷たい灯り。

しんしんと静寂が降り積もっていくこの夜に
たったふたりで外にいる俺たちを
その冷たい灯りだけが見下ろしていた。

隣をみあげる友人がポツリ、と言葉を落とす。

「…綺麗、だよなあ。」

覗き込めば呑み込まれてしまいそうになるほどに
底のない宇宙のような瞳がこちらを見ていた。

ぞくり、と嫌な鳥肌が立つのを首を振って振り払う。
そして自然に彼の瞳から月へ視線を逸らした。

「あぁ、綺麗だな。」

そう応えれば、また彼の視線の先は月へと戻る。
ちらり、と横目で彼の様子を見やれば
光が届かないその瞳にひとつの光が灯っていた。

「…その方がよっぽどいい。」
「なんか言ったか?」

月を見ながら彼が俺の独り言に答えた。

「いいや、なんでもない。」

そうか?と不思議そうにしながらも
彼の視線は美しい夜空から動くことは無い。
ぱちり、ぱちりと瞬く目からは
きらきらと光が散っているようにも見えた。

そんな彼の目を横から覗き込めば、
ぼんやりと光るひとつの灯だけではなく、
数えきれないほどの小さな灯が瞳に映り込んでいる。

「…また、来ような。」

そう月に見惚れる彼に話しかければ
彼はようやく月から視線を外しこちらを見た。
こちらを見た瞳にも俺の瞳を通して
小さな光が映り込んできらきらと光っている。

「…?……変なやつだな。」

俺の言葉を反芻するように
しばらく不思議そうな顔をしていた友人は
俺の顔を見て珍しくくすり、と笑ってそう言った。

3/7/2024, 12:14:39 PM