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幸せとは(以前書いた"祈りを捧げて"の前後あたり)
(完成しました〜!未完で投げててすみませんでした……!!)

 清廉潔白たれとは誰が言ったか。
 果たして純潔の定義とは何処にある。
 母曰く、結婚こそが至上の幸せと固定観念のように呟くのに辟易した私は家を出た。切っても切れない我々らの生活習慣たる祈りの為、十字架のネックレスだけは携えて。
 決して自身の性別や顔の分からぬよう、プレートメイルに身を包んで各地を旅した。かなりの重さがあったが、いつの日か体の一部のように軽く感じ始めた。
 この国に深く根付いた宗教には、婚前の女性は異性との交わりを禁じる戒律が存在している。実際の記述は"女性は純潔でなくてはいけない"といった具合だが、実質的にはこうなっている。口の大きい人の解釈に皆々が同調して、人々を縛る。枷というよりかは、鎖のようだ。連なり、連なり、取り囲み、縛り付ける。

「……ということは、ナイトさんではなくて家出少女だった、ということですの?」

「ナイトさん呼びで結構だ。少女なんて歳じゃない」

「へぇ。それで、結婚が嫌いだと仰ってたのに、なぜ左手薬指には大層なものを?」

「……目聡いシスターだな」

 擦り切れそうな手甲の皮に、ほんの僅かな指輪の膨らみ。
 嫌いだったのは、あくまでも母親や兄弟姉妹、親戚、友人、様々な人間……そして、言い寄ってくる人々が語る傀儡のような結婚であった。
 結婚こそが至上の幸せ――否、幸福の定義は人それぞれだというのに、全くもって押し付けがましい! ああ、忌々しい。
 それで……旅の果てに、花屋の少女と出会う。

「ああ、なるほどね。ええ、ええ、その子と結婚したのね」

「おい」

「続けてくださっていいわよ、最期まで」

 恐らく今の動きは……ウインクをしたつもりだったのだろう。この修道女は目隠ししているくせに、何をしたいんだ。
 それで、その花屋の娘もまた家族や周囲の人々に結婚を押し付けられようとしていた。望まない結婚をさせられようとしていたのだ。
 あまりにも私の昔の境遇に似通っていて、心が苦しくなって……どうしても私は力になりたかった。何度も話を聞いて、涙目の彼女を同じだけ慰め……それから、ある晩に彼女を連れ出した。

「ふーん……出身って、貴方かなりの北西よね。で、今は地の果ての南東まで来て。それでー……ええと、花の名産は数多いけど」

「内地は詳しくないだろ。彼女の村は南南西の山地だ」

「あら〜、なるほどね。山は嫌いで調べてなかったわ! メルシー、ナイトさん」

 長く2人で逃避行をした。
 山地という地形、村という経済状況を加味すると今までそう遠くに出かける機会が無かったらしく、始めの1年半ほどは毎日が楽しそうだった。
 だが、人間は渡り鳥ではない。

「家を求めたのね。きっと優しい人類ですから、2人の家をね」

「……気色悪いまでに察しが良いな。今まで言葉通りにだけ受け止めて何百人と破滅させてきた×××な×××が、今更人心を解したつもりか」

「ええ、そのつもり。ですから再婚相手には、私が最適ですわよ」

「×××野郎がっ……」

 とある街に留まったとき、随分遠くまで来たんだからもう羽を休ませるべきだと彼女が私を諭した。新品だったプレートメイルも、輝きが鈍るほど傷まみれになっており、端は何箇所も欠けていた。
 確かに、もう我々らは休むべきだろう。宿の一室を借りつつ仕事を始め、数年後にはこじんまりとした小さな家を買うに至る。
 幸せだった。とても幸せだった。二人きりの時間が更に親密な物となっていた。
 好きな人と二人きりでいる。これこそが幸せだ。

「でも、それは死が二人を分かつまでの話よね」

 記憶に深く刻まれている。
 同性では式をあげることを赦されておらず、致し方なく指輪を互いに身に着けることで契約ではなく記憶による永遠の誓いをする事とした。
 そう、したかった。
 早春の日、指輪を握りしめて家路についていた時、馬車を見かけた。
 胸騒ぎがした。

「ふーん。もしかして村で結婚を迫ってきていた人らの誰か?」

「……自分の面子を潰されたと、家へ半狂乱の男が押し入ってきた。粗末なサーベルだったが、か弱い女性を死に至らせるのには十二分だ 

「あらあら、それでそれで?」

 残念ながら、記憶はここからはほとんど曖昧だった。
 彼女を自らの手で埋葬したのは確かだが、他はどうしたのか覚えていない。
 そこからしばらくしてから、再び私は旅に出ることを決意した。小さな家とはいったが、彼女がいないと……かなり、広くて、苦しかったからだ、
 増えてしまった荷物の大半は置いてきて、写真や思い出の品を数多くを身に着けた。しばらくロクに使っていなかったプレートメイルも新調した。
 そこからは……また数年して、シスター、お前に出会った。

「へえ……良い暇つぶしになったわ。ありがとねナイトさん」

「ふん……」

 こいつは喪失をなんだと思っているのか。理解は……し難い。
 だが、この記憶が私に与えた幸せの価値観と喪失の苦しみは、人生経験の大きな物の一つであることは確かだ。
 ごう、と風が吹き荒ぶ。

「ねえ、ナイトさんは幸せって何だと思うかしら」

「それは既に気に入った思い出の反芻でしか得られない」

「ふふ。そういうところが私のようなモノを寄せ付けるのよ」

1/5/2026, 8:14:26 AM