となり

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 明かりの消えた六畳一間の片隅で、窓辺を照らす月を見上げていた。ラジオから流れるステレオタイプの歌が、今夜は妙にしっくりきて容赦なくとどめを刺してくる。壊れた涙腺に身を任せ叫ぶように泣いた午後三時。あれから時計の針は丁度十二回まわっていて、食事も睡眠もとらずに時間だけが過ぎていった。
 一方的に終わりを迎えた関係はどうしたって戻らなくて、理由を問う間もなく消えたのが悔しくて、情けなくて、可笑しかった。畳んだままの布団は少し皺が寄り濡れている。頬へ触れると、感触からみっともない跡が付いているのが分かった。
 乾いた笑いが零れる。枯れてしまえば後は笑うしかない。責める矛先に相手がいなければ自分へと返る。何が悪かったのか、どこを間違えたのか、どうすれば変わらず傍に居てくれたのか。答えは、未来の自分が知っているんだろうか。やけに輝く月明かりを見上げ勝手に惨めさを覚える。二人で、コンビニ帰りの夜道を歩いたときはあんなにも優しかった光が、今は遠く切なさを帯びて眩しい。
 ふと、突き刺すような冷たい風が前髪を攫ったかと思えば見えたのは──白。午前三時に降る雪は淡く冷たく、そして柔らかそうに見えた。ああ、もしかしたらこんな風に、ゆっくりと積もっていったのかもしれない。重なる不満やすれ違いに気付かず、時には知らないふりをして見過ごしていた代償。思わず力が抜けて壁に凭れた右半身がずるずると擦れて床に寝転ぶ。
 馬鹿みたいに恋焦がれていた。その気持ちは嘘じゃない。たとえ日付が変わったとしても昨日までの日々に別れを告げるのは、意識を手放すまでは、まだ。


#眠れないほど

12/6/2024, 9:01:25 AM