夏の匂い
夏の匂いと言われても特に思い当たらないな。
金木犀は秋だし、花の香りは春だろうし。
冬の匂いというのもなかなか想像がつかないけれど、冬には冷たい「無」というような匂いがある気がする。生命が眠りについている、モノトーンの世界の匂い。
じゃあ夏も似たような要領で考えられないかと思うけれども、すっと出てくるものはない。
思えば、夏はその他の情報が多すぎる。
五感に当てはめて考えるならば、視覚で眩さを覚え、聴覚で蝉の音を聞き、触覚で暑さを感じ、味覚は……アイスかな。
人間に備わった機能を既に存分に使って夏を味わっている。もう匂いの入る隙はないのかもしれない。
それでも無理矢理に夏の匂いを考えるのであれば。
花火の火薬の匂い、アスファルトの焼ける匂い、プールの塩素の匂い、緑の匂い、服にこびりつく汗の匂い、夕立前の湿った匂い、屋台の焼きそばのソースの匂い……。
――あれ、意外とある?
7/2/2025, 8:32:21 AM