モンシロチョウの幼虫って、半数以上が寄生バチに食べられてるんだって。知ってました?
にこりと私へ顔を向けた彼は、その明るい顔に似つかわしくない話を口にした。ひらひら優雅に空中を舞っている蝶々を見ながら話すのはどうかと思うが、そもそも彼とは思考回路が違うのだから仕方がない。
しかもけっこうエグいの、なんて返答を待たずに向けられた液晶画面に表示されている文字を追うと、確かに少々残酷な過程が記されている。まさか清々しいほどに晴れた空の下、のどかな公園のベンチで自然の無情さを感じることになろうとは思ってもいなかった。
ため息を吐く私に、大きな体が横からのしかかってくる。じゃれつくところだけ見れば大型犬のようだが、人懐っこい見た目とは裏腹になかなかのサイコパス野郎だ。皆、甘い顔に騙されているだけで。
先輩の中身は俺に食べさせてくださいね。
こんなことを言っているのだから。私はもう幼虫ではないと言い返すが、俺だって蜂じゃないですよ、と。じゃあ今までの話は何だったのだと言いかけて呑み込む。言うだけ無駄だ。例え話がしたいわけではなくて、直喩的に食べて良しと許可が欲しいだけなのだろう。
君、蜂じゃなくて蜘蛛とかカマキリだと思うよ。
許可の代わりに届けた一言に彼は納得のいかない唸りを漏らす。意味がよくわかっていないようだ。無自覚なんだろうが、君は幼虫の中身を啜るより、十分育った成虫を自分の手で捕まえる方が好きなんだろうよ。
『モンシロチョウ』
5/10/2023, 10:51:58 AM