卑怯な人

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「bye bye...」

 なんだろう...暖かいものが私を包み込んでいる。そう思いながら穏やかな気持ちで目を覚ました。暖かいものの正体は、カーテンの隙間から木漏れ出た陽の光だった。外の明るさからしてもう昼だろうか。近くの工事現場も静かになっていた。
 久々に、懐かしい人を夢で見た。二つ隣の家に住んでいた幼馴染の彼女の夢を。あと何度でも一緒に遊んでいたかったあの時を。もう二度と叶わない夢を私は必死に想像していた。

        「無駄な事を」

 そんなことは私自身が一番分かってる。もう彼女はこの世にいない。私は間違いなくこの目で見たのだ。彼女の呆気ない死に様を。
 通学路で一緒に歩いている時だった。遠目で君を捉えた時、声を掛けようと走り出した。その時だった。君はトラックに轢かれたのは。その瞬間、私の世界はスローモーションになったかのように時の進みが遅くなった。

 何が起きた?

君は確かにあの横断歩道を歩いていたはずだ。ならば、君は何処へ行った?

 何が起きた?

周りの人の悲鳴が聞こえる。一体、何を見て叫んでいるのだろうか。

 何が起きた?

アスファルトで舗装された道が鮮やかな赤で染まっている。

 何が起きた?

「もう疲れた。今日は帰ろう」





 その後の夜を、私は覚えていない。私の記憶が再び動き始めたのは、その翌日の全校集会だった。舞台に立った校長先生が君の死を語っているのを、私含め全校の皆が余りにも冷静に聞いていた。
 そこから半年...いや一年程か?何事にも意欲を示さず、無機質な人間に成り果てている私がいた。あれだけ長い間一緒にいて、休日も二人で遊びに行っていた仲であったのに、君の声を思い出せなくなっていた。君との記憶は削除されてゆくのに、私の心の喪失感はちっとも癒えない。私は前を見るのも怖くなった。
 そのまま、気づけば高校も卒業してしまった。もう、君は私の隣にいない。ここからは本当のひとりぼっち。だから、夢の中で言われた君の言葉に答えなければならない。

        「さようなら」と...

                   了

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前回のお話の続きのつもりです。
もしよければ読んでみてね☆

3/23/2025, 4:53:11 AM