延々と伸びてゆくレールに沿って、桔梗に似た青い花々が一面、どこまでも群れ咲いている。淡い光を帯びたそれらは、明けない夜闇の中の唯一の灯りにも等しかった。
ほう、と思わず息がこぼれる。ようやくたどり着いた駅のホームでひとりきりなのをいいことに、突っ立ったまま景色に見惚れる。夢のようだった。いいや、間違いなく、夢だった。私が見る最後の夢だ。
あたりは静かだった。汽車はまだ来る気配がない。時おり風が吹き、花々をいたずらに揺らしていく。やわらかに波打つ先から花弁に溜まった露が落ち、光の粒となって散っていく。またたくようなそのかすかな音さえも冴やかに聞こえて、私はしばらく耳を澄ませた。やがてそれも止んで、なんとはなしに線路の先へと視線を向けた。夜闇に溶け消え見えなかったが、淡い花々の青白い光だけはともしびのように灯っているのが見えた。レールを彩るように一直線に、一面に咲く青い花々を眺めながら、天の川のようだなとぼんやり思う。
瞬間、遠く背後から汽笛の音と規則正しい走行音が響いた。振り向くと、黒い車体に花々の淡い光を映しながら、汽車がやってくるのが見えた。汽車はなめらかにホームに入ってくると、規則正しく、私の前で止まった。レトロチックなドアが開き中へと招く。一拍置いてから私は一歩踏み出した。ホームにはやはり私以外誰もおらず、誰かが来る気配もなかった。ただ花々が灯るばかりの静かな夢だった。ステップに足をかけ、乗りこむその瞬間に気づく。――美しい一面の花畑は、実際、天の川の「よう」なのではなく、天の川そのものなのだろう。あの花の一輪一輪がまたたく星であり、こぼれて散る露のひとかけらすべてが星屑であり、目の前の景色はただしく星の河なのだ。
きっとそれを、夜の中、私の足元よりずっと下で眠っている彼らは知らない。できることなら、もっとずっと先になってから知ればいい、とひそやかに思う。彼らの最後の夢は、うんと遠ければいい。
星河の下の下、穏やかに明日を待ち眠るひとたちを思い浮かべながら、今度こそ迷わず汽車へと乗りこんだ。
ドアが閉まり、私の夢が終わる。
(お題:星空の下)
4/5/2023, 3:52:09 PM