ファンタジー。勇者と魔王。500字。
暖かな呪縛
山間の小さな村に奴はいた。
「お久しぶりです。あの後、王国に帰って王女と結婚するはずが行方不明になったと聞きましたが」
「お前を討ち漏らしたことに気が付いたからな」
王国を混乱に陥れた魔王が、こんな辺境で学校の先生をしていたとは。
「貴方の剣は間違いなく私の急所を貫きましたよ。崖から落ちて、この村に流れ着き、村人の手厚い看護を受けなければ死んでいました」
奴がポットを傾け、カップにお茶を注ぐ。
「それで……ここで魔王軍の復活を企んでいるのか?」
「そう見えますか?」
俺に一つカップを渡し、もう一つを啜る。
「まあ、反省したといっても信じられないですよね」
「先生!」
子供達が教室に入ってくる。
「先生、あのね、あのね」
「ねぇ、先生!」
「先生達だけお茶飲んでずるい!」
子供達が奴を囲む。
「私はここから逃げません。始末するなら、この子達のいないところでお願いします」
小さな声で頼んだ奴を、彼等はきょとんと見上げた。
「先生、始末ってなあに?」
「裏の枯れ木が危ないから切ってくれと頼まれたのだよ」
茶を飲み干して俺は立ち上がった。
「僕も手伝う!」
「私も!」
確かに、この呪縛からはもう逃れられないだろう。
「ありがとうございます」
お題「逃れられない呪縛」
5/23/2023, 11:48:08 AM