きっと忘れない
あの日、あの縁側で小さな小さな生き物にであった瞬間のことをきっと自分はこれからずっと永遠に続くであろう生涯きっと忘れないだろう。青年はぴくりともしない冷たい胸に、やはり冷たい手のひらを当てながら誰もいない縁側を眺めてそう思った。
人間を模して作られた青年のその身体は見た目ばかりで、その中には臓器の一つも入ってはいない。体温のない手のひらで触れるこの胸も鼓動を打つことはない。だというのに、どうしてかあの時あの小さな人間に出会った瞬間に一度だけ胸がジンっと熱くなって、ドクドクと心臓が脈打つ感覚が確かにしたのだ。
リン、と遠くで風鈴がなる音がした。今年もこの季節がやってきた。去年、あの小さな少年はここに来なかった。この家の人間たちの話を盗み聞きした限りでは、どうも少年はやっかいな病気を患っているらしい。
根性が足らんのだ、根性が。とでっぷりとした腹を擦りながらこの家の主が刺々しく呟いた。皆一様に、刺々しいどこかその話題の主である少年をどこか煩わしく思っている様なそんな表情を浮かべて話をしていた。
そんなにあの子が煩わしいのなら、いっそ俺がもらってしまおうか。モヤモヤとした気持ちを振り払う様に、目の前の禿げ上がった家主の頭をぶん殴ってやった。もちろん家主も周りの人間にも、人成らざる青年の姿が見える者はなく、突然殴られた様な衝撃に襲われた家主はぎょっとした顔で頭を擦っている。
ざまあみろ、聞こえない声で吐き捨てて、青年は足早にその場を去った。ないはずの胸がモヤモヤとして仕方がない。ああ、あの子に会いたい。そんなに皆から疎まれているのならいっそ俺がさらってしまおうか。ぱっとそんなことを思い付いた瞬間また青年は自らの心臓が鼓動を打った音を聞いた気がした。
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前に書いたやつの続きの様な、前日譚の様な
お題にはあんまり沿ってないです
8/21/2025, 9:30:19 AM