—スマイルください—
ピロリ、ピロリ。
店内に足を踏み入れると、ポテトが揚げ終わる音がした。
(お、いたいた)
一ヶ月ほど前にアルバイトを始めた娘が、カウンターに立っていた。客の注文を受け、端末にタッチしている。
相当忙しいせいか、俺に気づく様子はない。
列に並び、なんでもない客を装った。
「いらっしゃいませ」
ようやく自分の番が回ってきた。
一瞬動揺した娘の様子をみると、やはり俺に気づいていなかったとわかった。
「店内でお召し上がりですか?」
「持ち帰りで」
それから俺はメニュー表をみて、家族みんなの分も選んで注文した。
そして俺はみつけてしまった。
表の右下に小さく書かれた文字を。
「それと……、スマイルください」
娘は嫌そうな顔をひとつも見せず、屈託のない笑顔をみせてくれた。
可愛いなぁ、と心の中でそう思った。
「ありがとうございました」
「またご利用ください」
家に帰って、注文したそれを妻と食べていると、スマホに通知がきた。
『次スマイル注文したら殺すから』
娘からだった。
あの可愛い笑顔の裏には、明確な殺意が隠れていたのだ。
『ごめん。』と、一応謝っておいた。
……もちろん、忘れた頃に、俺はもう一度頼むつもりだ。
お題:スマイル
2/9/2026, 2:13:20 AM