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若かりしころ、外国に憧れて、海外で働くことをぼんやりと夢見る時期があった。
今のように、海外の情報をリアルタイムで調べられる便利な時代とは違って、あのころは情報が少なく、だから余計に、遠い国の知らない街に憧れ、思いを巡らせていた。

「エアメールって手紙なの?じゃあ、連絡ツールはどうなってたの?メールやチャットは?」
いろいろなことに興味を持ち始めた娘に、確か海外での生活を紹介するテレビの情報番組を一緒に見ていたとき、私の若いころの話を質問されたことがあった。

娘が生まれたときにはすでに、当然のようにインターネットが普及していたし、携帯電話で世界中と繋がることも普通のことになっているのだから、娘が驚くのも無理はない。

昔は、絵葉書の写真…今風で言うならポストカード、洋画やたまにテレビで放送される海外ドラマを見て、異国の街並みに心奪われる、そんな感じだった。

「だからママは、ポストカードを見たら買っちゃうだね。家中、行ったことのない国のポストカードだらけじゃん」
するどい指摘を娘から受けてしまう。
娘にもバレてしまうほど、海外への憧れは残ったままなのかもしれない。

いよいよ娘が進路を決める年頃になり、「パパ、ママ、あたし語学留学したい」と言い出してきたときは驚いてしまった。
けれど夫は娘の決断に驚きもせず、「ママの子供だね、やっぱり」と私に笑いかけていた。

私は結局、海外には行かずに日本で働き始め、そして夫と出会い結婚して、娘が生まれた。
私と同じ年齢の女性が海外で活躍している姿を見ると、時代のせいではなく、あのころの私には実現するだけの勇気がなかったのだと少し切なさを感じていた。

「でもママは、新しい夢ができて、そこに向かって頑張って働いたんでしょ。それに、日本にいなかったらパパには絶対会えなかったし、そうなると、あたしが生まれてこなかったんだよ」
留学先の娘とビデオ通話をすることが日課になり、ここ最近の楽しみだ。
それにしても、娘の指摘がますます的確になっている。

「あ、そうそう、今日とか何か届いた?」
「特に何もなかったと思うけど」
「ふーん、まあいいや。また明日も連絡するねー」

なんとも軽やかに通話は終了した。
ホームシックにはなっていない様子なので、ひとまず安心はしている。

夕飯の支度でも始めようかしら。
その前に夕刊を取ってこなきゃ。

取り忘れていた新聞を郵便受けから取り出す。
そこには一通のエアメールが一緒に入っていた。
街並みがとても綺麗なポストカードに、見慣れた娘の文字が記されていた。

「あの子ったら、まったく」
そのポストカードを手に、遠くの街へ、想いを馳せていた。

【遠くの街へ】

3/1/2026, 5:07:05 AM