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遠い日の記憶


持っている中で一番古い記憶は
幼い私がハサミで紙を切る手元を家族が少し不安そうに見守っている、そんなとりとめのないことだった
なぜ記憶に残っているのかは分からない
ただ、まっすぐに切れた紙を見た両親は私を褒めたたえた
「手先が器用だものね。上手に使えて偉いね」
なんとも誇らしい、こそばゆい気持ちになったことだけは覚えている

あの家は今どうなっているのだろうか
古びたアパート
そこにはまだ人が住んでいて、生活をして、記憶を積み上げているのだろうか
あの部屋にはどれだけの人間のどれだけの記憶が詰まっているのだろうか

全てに嫌気が差して出たあの町を毎日のように思い出す
自分の選択が正しかったのか知るすべなど無くて
いつかこの日すらも記憶になっていくどうしょうもないことに怯えている

きっと両親は、今の私が真直に紙を切れたと見せても上手だと褒めてくれるのだろう
それで私は誇らしい気持ちになれるのだろうか。
いや、きっと情けなくなってしまうのだ。
この世界は何も変わっていない、周りの人間は何も変わらない。
変わったのはただ私だけなのかもしれない。

7/18/2024, 2:22:29 AM