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赤、

赤、

赤…………


「赤いですよ。」
隣から聞こえた女性の声が、そう告げる。助手席に視線をやる。
そんなもの、分かっている。見れば分かるのだ。
数年経っても変わらない光景。
いや、変わらないでほしかった、この光景。
なのに、俺の求めているものとは程遠い、この光景。

赤、

赤、

赤…………

視線を前に戻す。目の前の赤は変わらない。
数秒前から変わらない光景。今すぐに変わってほしい、この光景。

赤、

赤、

青。

やっと変わった。車を発進させる。
隣の女性は、もういない。見なくても分かる。


変わらないでほしかった。


もう少し、もう少しだけ。
もう少しだけ隣にいてくれたら。


この赤は色鮮やかなものに変わったのだろうか。


先程の声の主は、きっと彼女を模した "何か" だろう。


本来、隣にいるべきだった彼女を模した、
しかし、俺の求めているものとは程遠い。

そう、先程まで居たのだろう。




俺の愛する人_『赤井』を名乗った "何か" が。

⦅2025/09/05 信号⦆

9/5/2025, 1:40:08 PM