はた織

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 少女は肩にかけた重いトートバッグに触れる。両手でそっと紐を包み込んで、そのまま握り締めた。
「あの、自習できる机ってありますか」
「児童室では自習できませんよ。他の階に、空いている机はありましたか」
 少女が首を横に振ると、カウンターの向こうにいる図書館のスタッフは、残念そうな顔をした。彼女は相手の表情を察して、自分が勉強できる場所はないと理解し、俯きながら去って行った。
 勉強熱心に見せかけてスマートフォンに夢中な学生と自分の居場所を失った高齢者、新刊の情報しか漁らないくたびれたビジネスマンなどなど、そのような利用者は受け入れるのに、勉強がしたい小学生一人さえも受け入れられないとは、何と恐ろしい現実であろう。
 私は自分だけの図書館が欲しいと夢見ているが、やはり図書館は人類すべてのものだ。
 あの少女に、勉強できる場所を提供したいと私は願ったが、その願いを叶えるには人情だけでは現実にならない。時間やたましいさえも消費させる社会に生きるには、どうしても金で問題を解消させるしかない。私の弱さも、臆病も、諦めも。
 結局は、自分にはできないと虚な目で何事も無かったように振る舞ってしまう。
             (250523 そっと包み込んで)

5/23/2025, 1:26:57 PM