「いいかい。父さんはこれから自由落下をするからね」
そう言い残して、研究者だった△△の父は、飛び降り自殺をした。
△△の両親は早くに離婚していた。仕事がある中で家事をし、その上△△を育てていたのだから、父はどこか追い詰められていたのかもしれない。気がつけば、父の機嫌を損ねて手をあげられることが日常となっていった。
ある日突然、マンションの屋上に連れて行かれて、△△は遂に自分が殺されるのかと怯えたが、そうではなく父が死んだ。
愛や優しさというものを、自分は知らない。施設に入って、たくさんの人に優しくしてもらった。自分は、その人達の真似をして誰かに優しくしたり、共感したりした。だから本気で心から優しい気持ちが溢れだしたことなど、死ぬまで一度もなかった。
愛されてみたかった。そして自分も、心の底から人やものを愛せる人間になって、優しい人だと言われたかったのだ。
6/18/2023, 2:06:34 PM